大人が楽しめるケーキ。それは「サヴァラン」。シロップと洋酒がたっぷりしみこんだケーキは、口に入れた瞬間、芳醇(ほうじゅん)な香りが広がり、至福の時間を与えてくれる。他のケーキとは一線を画す、その魅力に迫りたい。
サヴァランが誕生したのは19世紀のフランスとされる。王冠の形に焼き上げた生地にシロップをしみこませ、ラム酒などの洋酒をかけたケーキで、美食家のブリア・サヴァランにささげられたことから、こう名づけられた。
東京都港区白金にある洋菓子店「パッション ドゥ ローズ」のシェフ、田中貴士(たかし)さん(42)は、サヴァランに並々ならぬ情熱を注ぐ一人だ。原点は、子供のころに遡(さかのぼ)る。
「ケーキを選ぶとき、母はいつもサヴァランだった。一度食べさせてもらったら、お酒の味と香りが、すごくリッチだなって。そのときにわき上がった感情がつながっているんです」
アラン・デュカス、ジョエル・ロブション、ピエール・エルメら世界を代表する巨匠の名店でパティシエやシェフを務め、フランスの人気店で技術を磨いた経験もある。平成25年に店をオープンし、販売し続けているサヴァランは、フランスの伝統と技術を学んできた田中さんの集大成となる特別なケーキだという。
サヴァランはラム酒が使われることが多いが、田中さんが使うのは、フランス産のブランデー「アルマニャック」。
「おいしいサヴァランのためには、お酒もおいしい上質なものを。原料のブドウと樽(たる)が香り、芳醇さがある」