過酷な北極圏の海底に“化石”を食べる生物、その知られざる生態

生物が生きられない場所でも海綿動物が生息できるのは、もうひとつ生物学的な理由がある。海綿動物は「出芽」、つまり自分自身の小さなコピーをつくることで繁殖するのだ。

「出芽によってまったく同じ個体、つまり同じ遺伝子と同じ共生生物をもつ個体が生まれます。それはこのような環境で海綿動物が生きていくために必要なことです」と、モルガンティは説明する。つまり新しく生まれた海綿動物には、この過酷な環境を生き抜くために必要な遺伝子と、絶滅した生態系からエネルギーを得るために必要な細菌が備わっているというわけだ。

始まった時間との競争

海綿動物は珊瑚のほか、奇妙な巡り合わせだがチューブワームといった生物が付着できる場所を提供しているので、生態系全体における重要な“エンジニア”になっている。しかし、その強靭さがあっても、北極圏は地球のほかの地域よりはるかに速いスピードで温暖化し、生物のコミュニティは大きな変化に直面している。

「この海域の氷が減少し、このような発見ができることがその現れです」と、グリフィスは指摘する。「海中の塚は漁場に選ばれることが多いのです。この素晴らしい生息地は氷が溶けて船が通れるようになるつつあり、脅威に晒されています」

また太陽光をさえぎる氷が少なくなれば、この海域の生物の生産性は高まるだろう。つまり、海中の食べ物が増え、海綿動物の進化で得た化石を餌にできる能力は必要なくなるかもしれないのだ。

この極寒の海域の不思議な生態を、それが別物に変わってしまう前に発見できるだろうか。時間との競争が始まっている。北極圏や南極圏への行き来の難しさから、「深海にはもっとたくさんの発見が待っていることでしょう」と、グリフィスは言う。

(WIRED US/Translation by Nozomi Okuma)

会員限定記事会員サービス詳細