豪快なクロマグロの一本釣りを観光コンテンツにしようという取り組みが養殖マグロの産地、愛媛県宇和島市で始まり、実証実験のモニターツアーが行われた。全国初の試みながら、周年事業を控えた東京の企業から「ぜひやってみたい」と声がかかるなど、関係者は手ごたえを感じており、1年以内にツアーを実現したいとしている。
養殖いけすで水しぶき
モニターツアーは、JTB協定旅館ホテル連盟と、宇和島市の水産商社「宇和島プロジェクト」、伊予銀行が連携。ほかにはない愛媛ならではの観光コンテンツを開発しようと企画した。3月23日に行われた実証実験のモニターツアーでは、関係者ら約30人が参加した。
宇和島港からチャーターの遊漁船で約15分。主会場は比較的陸地から近い場所にあるクロマグロの養殖いけすだった。直径20メートル、水深も20メートルのいけす。通常は約300匹ものクロマグロが泳いでいるというが、今は出荷後とあって、4年もののクロマグロが15匹ほどになっている。
いけすに横付けした船からの餌やり体験。餌のイワシを投げ入れると、静かだった海面にいきなり水しぶきが上がり、躍り出るような勢いでクロマグロの1・5メートルほどの巨体が目の前に現れる。その迫力に参加者から驚きの声が上がった。
「マグロ解体女子」も活躍
一本釣りの体験は、この日は手釣りを見学する形となったが、雨が降り始め、釣れないまま中止に。その代わりとして、宇和島プロジェクトが前日に釣っていたクロマグロを見学した。
同社敷地内でつり下げられた魚体は約1・5メートル、重さは63・9キロ。説明にあたったのは入社4年目の奥村悠(はるか)さん(25)。イベントなどでクロマグロをさばくライブを行う「マグロ解体女子」としても活躍している。
奥村さんは「マグロは背びれを背中にしまい込むことができる構造になっていて、それで速く泳げるんです」と説明していた。クロマグロの可食部分は全体の半分ほど。紹介されたマグロを刺し身にすると、1人前10切れとして約320人分になると話していた。
マグロは25日にJR四国の特急列車で宇和島駅から松山駅に荷物輸送(客貨混載)で運び、松山市の観光地・道後にある「ホテル椿館」へ。ホテルでは同日夕、関係者らによる試食会が開かれた。
モニターツアーにも参加したホテル椿館の宮崎光彦会長は「道後から宇和島まで2時間で移動できる。観光宿泊と1次産業のコラボが実現する。ほかにはない愛媛ならではの旅行商品として、実証実験を積み重ねて立派な観光商品としていきたい」と話した。
企業の周年事業として、すでに引き合いが来ているという。「ぜひ参加したいという声が寄せられている。社長がマグロを釣って、社員みんなで楽しく味わう、切り身を得意先に配るといったことが考えられる」と宮崎会長は手ごたえを感じている様子だった。
ツアー価格は未定
ツアー価格の設定はこれからで、50万円以上になる見込みという。当面は対象が企業や団体になりそうで、釣りというレジャー要素が濃いことから、海外需要もあるとみている。
4年もののクロマグロは80キロから100キロにもなり、釣れる魚の大きさによって価格がかなり異なる。宇和島プロジェクトの木和田権一社長は「愛媛が盛り上がったらうれしい。ニーズが一番重要だ」と話していた。
通常の一本釣りではクロマグロが針にかかると、すぐに電気ショッカーを下ろして締める。後は引き上げるだけとなるが、釣りのだいご味として、竿釣りで巨大魚の引きを楽しみたいという要望が出ることも想定している。比較的小ぶりな2年もの、3年もののクロマグロを釣ることも可能で、観光コンテンツの中身は今後の実証実験で詰めていく。関係者らは令和4年度のツアー実現を目指している。
水産庁によると、同県のクロマグロ養殖は平成17年から始まった。場所は宇和島市と愛南町の宇和海で、生産量は増加傾向にある。令和2年の生産量は1569トンだった。(村上栄一)