「パンクしにくい自転車」開発20年 進化する下町の技術

「エアハブ」を装着した車輪を手にする中野鉄工所社長、中野隆次さん=3月18日、堺市美原区
「エアハブ」を装着した車輪を手にする中野鉄工所社長、中野隆次さん=3月18日、堺市美原区

パンクしにくい自転車があったら、誰もがうれしいはず。それを実現する技術が国内の自転車産業の集積地、堺市にある小さな自転車部品工場で生み出されていたのをご存じだろうか。車輪が回転する力でタイヤに空気を送り込む「エアハブ」と呼ばれる仕組みで、製造業の振興に貢献した人材を表彰する「ものづくり日本大賞」特別賞にも輝いた発明だ。誕生から20年。生産者は今も改良や新技術の開発を続けている。

社員5人の町工場

「エアハブ」を開発したのは、堺市美原区の「中野鉄工所」2代目社長、中野隆次さん(78)。従業員数5人、年商6500万円ほどの小さな工場を切り盛りする。

昭和23年の創業以来、自転車の車輪中央部「ハブ」を作り続け、自転車ハブではかつて国内トップのシェアを誇った。エアハブを開発したのは、自転車製造大手のブリヂストンサイクルから「ユーザーの困りごとにはタイヤのパンクが多い」と聞いたのがきっかけだ。

「道は舗装され、くぎが落ちているわけでもないのにパンクするのは、空気圧の問題だった」と中野さん。チューブは弾力性があるゴム製のため、次第に空気が抜けていく。そうするとチューブが車輪内でこすれたり、段差に挟まったりしてパンクしてしまうという。

エアハブの内部。車輪の回転を上下運動に変えてポンプを動かし、空気を送る=3月18日、堺市美原区の中野鉄工所
エアハブの内部。車輪の回転を上下運動に変えてポンプを動かし、空気を送る=3月18日、堺市美原区の中野鉄工所

ならば、チューブを適切な空気圧に保てばいいのではないか。そう考えた中野さんは、ハブから空気を補充する技術を考案する。車輪の回転によってチューブに空気を送り込むポンプを動かし、適切な空気圧になれば逃がし弁から空気を出す画期的な構造だ。

技術力で活路

ただ、そこからが大変だった。ブリヂストンサイクルの協力で、さまざまな耐久試験を実施。ポンプのピストン部分は地球1周半以上、7万キロの走行にも耐えられるように改良した。一方で、大雨を想定した検証では、ハブの中に水が入り込んでしまうとそのままタイヤに送り込まれることが判明。隙間部分は素材を入り組ませることにより、空気は通るが水は通りづらい構造を実現させた。

そして平成15年、エアハブを採用した自転車がブリヂストンサイクルから100台限定で発売。好調な売れ行きを受け、翌年には採用自転車が量産化された。

エアハブの開発時、国産自転車は低迷期に入っていた。台頭する中国産にあおられ、国内の生産数は平成2年に796万台を記録して以降、下降線の一途。自転車ハブでは国内トップメーカーの中野鉄工所も、窮地に立たされていた。

米国でハブ生産会社を立ち上げ、台湾企業と提携した中国での製造などに挑んだが、安い労働力を背景にした中国企業との過当競争に敗れ、手詰まりに陥っていた。「自転車部品のハブしか作ってこなかった。自転車の中で模索するしかなかった」。そんな中、中野さんが必死になって手がけたエアハブは、17年に第1回「ものづくり日本大賞」で特別賞を受賞。技術力の高さで活路を見いだした。

冷めぬ開発意欲

だが、エアハブはこの20年、順調に売れ続けたわけではない。エアハブを採用した自転車は他の自転車より5千~6千円ほど割高になるからだ。それでも中野さんは「乗り続けてもらえれば、良さは必ず分かってもらえる」と自社の技術力をさらに追求。ライト用のダイナモ(発電機)付き、内装3段の変速機付き、車いす用と、機能や種類を充実させてきた。

ダイナモ付きや車いす用など機能や種類を充実させてきたエアハブ=3月18日、堺市美原区の中野鉄工所
ダイナモ付きや車いす用など機能や種類を充実させてきたエアハブ=3月18日、堺市美原区の中野鉄工所

特に、メンテナンス付きのリース契約で提供する業務用の自転車に採用されると、修理の回数が減ったと高評価を得た。そこから現在の主力取引先になっている。

中野さんは昨春、エアハブを発明した功績がたたえられ、旭日単光章を受章。取引先からの信頼や栄誉を得ても、ものづくりへの意欲は一向に冷めない。開発の秘訣(ひけつ)について「物事をこんなものだと達観せず、どうしてなんだと不思議に思うこと」と話した上で「ものづくりは必ず壁に突き当たる。そこで挫折せずに乗り越えてこそ、良い製品にたどりつく」と力を込めた。(藤谷茂樹)

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