【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮は24日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射し、「レッドライン(越えてはならない一線)」を踏み越えた。ロシアによるウクライナ侵攻で米欧対中露の対立構図が深まる中、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記が、国際社会が対北圧力で一致できない絶好のタイミングだと踏んだ可能性がある。
「金正恩氏が国際社会への約束を自ら破棄したもので、朝鮮半島や国際社会に深刻な脅威となる」。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は24日、国家安全保障会議(NSC)でこう批判した。正恩氏が2018年に宣言したICBM発射と核実験凍結の破棄と同時に、文氏の南北融和策の終焉(しゅうえん)も意味した。
北朝鮮の国家宇宙開発局の科学者は、国防5カ年計画で偵察衛星を多数打ち上げるとした22日公開の文書で「宇宙開発は主権国家の合法的な権利だ」と主張。米国を念頭に「帝国主義者らが妨害している」と批判した。北朝鮮は今回の発射も「宇宙開発が目的だ」と強弁する可能性がある。
北朝鮮は来月15日に金日成(イルソン)主席生誕110年の記念日を迎える。今月16日にも弾道ミサイル発射に失敗したばかりで、是が非でも記念日までに発射を成功させ、国威発揚につなげようとの執念が読み取れる。
正恩氏を発射に踏み切らせた要因の一つがロシアのウクライナ侵攻だったとみられる。これまでロシアを擁護してきた北朝鮮外務省は21日にウェブサイトに掲載した記事で「中国外務省報道官がウクライナ問題で中国を圧迫する米国を非難した」と紹介し、中国と歩調を合わせて米側を批判した。ウクライナ侵攻を機に中露朝対米欧の対立を浮き彫りにさせる意図がうかがえる。中国は1月から中朝間の列車運行を許可し、多くの物資を北朝鮮に供給、物理的にも北朝鮮を支える姿勢を鮮明にしている。
北朝鮮外務省は24日、北朝鮮のミサイル発射を非難して拉致問題解決を迫る岸田文雄首相を批判する記事も掲載。拉致問題について「もはや存在もしない。完全無欠に解決された」と主張し、日本とも対立する態度を示している。