野球がぜんぶ教えてくれた 田尾安志

今季の阪神は最初が肝心

4年目の指揮を執るシーズンに臨む阪神の矢野燿大監督(安部光翁撮影)
4年目の指揮を執るシーズンに臨む阪神の矢野燿大監督(安部光翁撮影)

いよいよプロ野球の開幕が目前に迫ってきた。長いシーズンの戦いに臨む12球団の監督の中にも、僕の感覚では考えられないユニークな言動をする監督が増えてきていて、興味深い。

今季から日本ハムの指揮を執る新庄剛志監督が就任会見で「優勝なんて一切目指しません」と逆説的に宣言したのにも驚いたが、さらに衝撃だったのが4年目を迎える阪神の矢野燿大監督。キャンプイン直前に、今季限りでの退任を表明した。

チームやファンに向けて自分の立場を明かすことで、周囲の重圧をかわしたい狙いがあるのかもしれない。しかし、監督として長いシーズンが始まる前に退任する意思を公にする必要が本当にあったのか。周囲には言わずに、チーム内では暗黙の了解にしておくのでよかったのではないか。僕なら今年で辞めるとは決して言えない。現場の人間に与える動揺や組織に与えるマイナスの要素が大きすぎると思うからだ。

プロ野球の監督は、球団から任を解かれる日までは自ら辞めるとは言うべきではない職業だと思う。「自分は今季限り」と言えば、コーチたちは「監督が辞めるなら自分も辞めなければならない」と考える。来年以降の働き場を気にする人もいる。

選手たちは、来季は別の監督の下でやると分かっている中で野球をやる。一流選手は監督が誰でも試合に出られるが、実績のない若手はチャンスを与えられるかどうかは指揮官次第。監督好みの選手を目指しても、来季はまた違うものさしで評価されるから、気持ちの持ちようが難しい。そうした余計なことを考えることなく野球に取り組めるよう仕向けるのが役割だと思うから、矢野監督のやり方は不思議に感じる。

僕が考えているプロ野球監督の姿とは違うが、決して否定はしない。全員で12人いる監督それぞれに個性があるのは面白いし、見ていて楽しい。何が正解か不正解か、開幕前の今は分からない。

来季以降も阪神でプレーを続ける選手たちは、ただ前を向いて戦っていくのみだ。開幕から勝ち続ければチーム一丸となるだろうし、逆にスタートでうまくいかなければ全員が一つにまとまるのも難しくなる。今季の阪神の戦いは特に最初が肝心だとみている。(野球評論家)

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