サッカー通信

パワハラで退任の京都・曺貴裁監督 古巣の湘南と対戦、歓迎ムードに痛感した解釈の難しさ

湘南―京都。前半、競り合う(左から)湘南・田中、京都・金子、湘南・永木=レモンS
湘南―京都。前半、競り合う(左から)湘南・田中、京都・金子、湘南・永木=レモンS

サッカーJ1京都の曺貴裁監督が12日、慣れ親しんだ神奈川県平塚市のレモンガススタジアム平塚で古巣の湘南と対戦した。パワーハラスメント行為の責任を取って2019年に湘南の監督を退任してから初の古巣戦で、「湘南を辞めた理由は100%、自分自身にある。過去から学び、今いる仲間といいものを作っていく」と前を向いた。湘南サポーターは温かく迎えた。多くの湘南OBも曺監督率いる京都でプレーしており、スポーツ界の指導者と選手間におけるパワハラが繊細な問題であることを印象付けた。

湘南戦のキックオフを控え、「自分が初めて監督をさせてもらったクラブ。素晴らしいスタジアムでまた、試合ができることに喜びを感じる」と感慨深げだった曺監督。試合後には「ここが終着点ではなく、サッカー界がよくなるように力を尽くす。勝ち負けだけではなく、感動させる試合をしたい」と述べた。

2000年に川崎で指導者のキャリアをスタートさせた曺監督は、05年から湘南の下部組織で12年からトップチームで指揮官を務めた。18年にはYBCルヴァン・カップのタイトルももたらしたが、19年にパワハラ疑惑が浮上してJリーグは選手やスタッフに対する暴行、暴言があったと同年10月に認定。直後に監督を退任後、日本サッカー協会からS級コーチライセンスの1年間停止処分も受けた。

騒動でクラブのイメージが損なわれたにもかかわらず、湘南サポーターは曺監督の帰還を喜んだ。メンバー紹介の際に「曺貴裁監督」とコールされると大きな拍手がわき、曺監督がスタンドに手を振る姿もみられた。J2を主戦場としてた湘南をJ1で戦えるチームに再建した功労者に対する感謝の念が強くにじみ、少なくともパワハラが想起させる陰湿さとは無縁の空気だった。

京都には湘南OBも多い。先発した武富、松田、金子、途中出場した山崎と白井は、パワハラ騒動後に曺監督が率いることになった京都で再合流している。10~15年に湘南でプレーして今季から再び古巣でプレーする永木も、「一番お世話になった恩師。ずっと見てくれている人で、曺さんは自分も気にかけている人」と感謝の言葉を口にした。

サポーターはもちろんのこと、松田や永木らはパワハラの被害者ではなかったのかもしれない。監督の権力を背景とした選手、スタッフへの暴行、暴言が許されるわけもなく、心身にダメージを負った被害者がいた事実は重い。同時に12日の試合でスタジアムを包んだムードは、指導者による選手・スタッフへのパワハラの解釈が非常に困難であることを痛感させた。

北京冬季五輪の女子フィギュアスケートでも、優勝候補筆頭ながらミスを連発してメダルを逃したワリエワ(ロシア)をトゥトベリゼ・コーチが「なぜ諦めたの」と問い詰めたと報じられた場面が物議を醸した。国際オリンピック委員会のバッハ会長も「冷ややかな対応だった」と述べたが、ワリエワは自身のインスタグラムで「アスリート人生で最も大事なイベントに導いてくれた」とトゥトベリゼ・コーチを含むスタッフに感謝の気持ちを伝えている。

指導者と選手・スタッフ間の信頼関係によって行為の意味は大きく変わってくる。スポーツ界に一般社会の常識を単純に当てはめていいのかについてもさまざまな意見があるだろう。パワハラが根絶させなければならない悪質な行為だけに、線引きの難しさを改めて感じさせた。(奥山次郎)

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