抵抗できない子供への虐待 悪質放デイの見極め

事件があった「きずな難波」が入るビル=大阪市浪速区
事件があった「きずな難波」が入るビル=大阪市浪速区

障害の可能性がある子供たちが通う「児童発達支援・放課後等デイサービス(放デイ)」で、児童らに暴行を加えたとして今年2月、施設経営者の男が大阪府警に逮捕された。さらにその後、あろうことか施設オーナーの男も一連の暴力行為を告発しようとした職員への脅迫容疑で逮捕された。子供たちが安心して通えるはずの施設で、なぜそんな卑劣な行為がまかり通ったのか。

膝蹴りに脅迫も

男は未就学男児の小さな身体を床に転ばせて背中を押さえつけると、抵抗できない男児をそのまましかりつけた-。

昨年9~11月、大阪市浪速区の児童発達支援・放課後等デイサービス施設「きずな難波」の防犯カメラが捉えた暴行の一部始終だ。こうした映像などが決め手となり、施設経営の三浦健二被告(73)は暴力行為処罰法違反容疑で逮捕され、後に暴行罪で起訴された。府警によると、「しつけに必死になった」と容疑を認めているが、カメラの映像は「しつけ」の範疇(はんちゅう)を完全に超えていた。

三浦被告は男児のほかにも、施設に通う女子高生の尻を膝蹴りした疑いが持たれている。2人は会話や意思疎通が難しく、捜査関係者は「暴行が明らかにならないように抵抗できない子供を狙ったのだろう」と憤る。

施設で繰り返される異様な光景に耐えかね、意を決して止めようとしたスタッフもいた。ある女性職員は一連の虐待行為を記した報告書を施設オーナーの男(50)に提出。退職を願い出たところ、昨年12月、浪速区内の飲食店に呼び出され、「通報したら一生恨むよ」とすごまれた。一連の捜査の中で、脅迫の疑いが発覚し、府警は今月、オーナーの男を逮捕した。

新規参入のハードル低く

きずな難波の運営会社のホームページによると、放デイでは国家資格を持ったスタッフらが、さまざまなプログラムを通して子供たちの発達をサポートするとしている。《それぞれのカラーや課題に合わせた指導方法により、お子様が楽しみながら成長できるよう支援します》。事業方針についてこう書かれているが、実態は大きくかけ離れていた。

障害がある6歳から18歳までの子供が放課後などに通う放デイ。その数は近年、全国的に増えており、平成24年度は約3千カ所程度だったが、令和元年度は約1万4千カ所に。施設に通う子供の数も約23万人に達した。利用料の9割が公費でまかなわれるため、ほかの障害者サービスと比べて利益率が高く、当初は新規開設に特別な資格が不要で新規参入のハードルが低かったことが背景にある。

一方で今回の事件のような虐待は後をたたず、厚生労働省の調査によると、平成27年度以降、障害者への虐待が行われた現場は放デイが約1割を占めた。障害者福祉に詳しい東洋大の是枝喜代治教授は「放デイの増加によって保護者側の選択肢が広がった半面、経営者の経験が浅かったりして障害者をケアすることの本質的な意味を理解できていないという施設が増えたのではないか」と指摘する。

外部の視点で点検

こうした状況を踏まえ、国は27年、放デイの基本姿勢や虐待防止などを示したガイドラインを策定。自治体も施設内での虐待防止に向けた取り組みを始めている。

神戸市では昨年5月から、市職員とともに金融機関での管理職経験者が放デイを訪問している。外部の視点で施設が適切に運営されているかをチェックし、虐待や公費の不正受給を防ぐ狙いがある。臨床心理士などの資格を持つ大学教員3人が各事業所職員と面談して、利用者の特性に合わせた接し方などを助言する取り組みも行っている。

是枝教授は「行政が主導して事業所の職員らへ虐待防止の研修を行ったり、運営実態を定期的に点検したりすることも必要」としたうえで、「子供のためにしっかりとした経営、運営をする事業所なのか、認可する際に厳しく見極めないといけない」と話している。(小川恵理子)

会員限定記事会員サービス詳細