中1ギャップも要因になる街中の学校再編問題

工事中の大阪市立田島中学校。小学校2校と統合され「田島南小中一貫校」になる=2月7日、同市生野区(生野区の学校統廃合を考える会提供)
工事中の大阪市立田島中学校。小学校2校と統合され「田島南小中一貫校」になる=2月7日、同市生野区(生野区の学校統廃合を考える会提供)

大阪市生野区で進められている市立小中学校の統廃合に、一部の保護者や地元住民らが反発している。少子化に伴う措置だが、地域の実情を顧みず行政主導が過ぎるという。ただ小規模校ゆえのデメリットもあり、合意形成の難しさが浮かび上がる。

徒歩で「30分以上」も

「市はスケジュールありきで学校再編計画を進めている。住民の意見をまともに聞かず強引だ」。生野区舎利寺(しゃりじ)連合振興町会の会長で、「生野区の学校統廃合を考える会」を立ち上げた猪股康利さん(75)が語気を強める。

自身も卒業した舎利寺小学校は3月末に廃校する。各学年1クラスしかなく、昨年5月時点で児童数は172人にとどまる。在籍児童は4月に開校する小中一貫校「大池学園」と市内初の義務教育学校「生野未来学園」のいずれかに通うことになる。

居住地によっては今より通学に時間がかかり、児童の足で「30分以上」というケースも。道路標識が整備されていない地点が確認されたり、2校をカバーできるだけの見守りボランティアがいなかったりと、「通学路の安全対策に不安が残る」(猪股さん)という。

区内では「田島南小中一貫校」も4月に開校するが、工事がまだ終わっておらず、しばらくは校庭での活動も制限される見通しだ。

猪股さんは区役所に対しても、きめ細かな教育が提供できる小規模校のメリットや防災の観点から「地域の学校」としての重要性を伝えたが、溝は埋まらなかった。

住民合意「不要」に

生野区で学校再編が進む背景には、区特有の事情がある。関係者は「市内を見渡しても昔ながらの長屋が多く、商業施設は少ない。ファミリー層の流入に結びつかず、少子化に歯止めがかからない」と説明する。

令和2年国勢調査によると、生野区の15歳未満の人口は1万1098人。総人口12万7309人の9・4%にとどまり、市内24区でも3番目に低い割合だ。

市が学校の適正配置に関する指針に基づき、生野区内の小学校19校のうち、区西部エリアの12校を令和2年までに4校へ再編する計画を打ち出したのは平成28年だが、母校の消滅は卒業生らにとっても一大事だ。丁寧な合意形成を図ろうとすればするほど、計画が進まない。

結局、当初の目標時期に間に合わず、事態を憂慮した市は令和2年、着実な計画履行へ条例を改正。適正な学級数を1校につき「12~24」に。再編への前提だった住民の合意は「不要」とした。

統廃合を急ぐ理由

市が統廃合を急ぐ理由について、担当者は「児童・生徒数の減少に伴い、人間関係が固定化されてしまう」と懸念を挙げる。中学進学時の環境変化になじめず、不登校などが増える「中1ギャップ」の要因になり得るという。

その上で「再編で人数が増えれば学校行事の幅も広まり、多様な授業につながる。子供たちの教育環境の充実に資する」と話した。

3月4日、市議会一般質問でも生野区の学校再編問題が取り上げられた。

区選出市議が「地域間の分断、対立を招いている。反対している方とも協調しないといけない」と主張したのに対し、松井一郎市長は「さまざまな声に配慮しつつ子供ファーストの視点で進めてきた。未来を生き抜くために、たくましさやコミュニケーション力を育む必要がある」と答弁した。

減少一途の出生数

少子化は待ってくれない。内閣府の「少子化社会対策白書」(3年版)によると、出生数は年を追うごとに減り、元年には86万5239人で戦後最低を記録。学校の統廃合は全国で検討・実施されている。

文部科学省による3年度の調査では、この10年で公立小中学校数は2768校、生徒数も84万7593人減少。3年度までの3年間で公立小中学校の統合事例は437件あった。少子化で適切な学校規模が維持できなくなったことが主な要因とみられる。

和光大の山本由美教授(教育行政学)は「学校は地域コミュニティーの核として存在してきた歴史があり、少子化が進む中でも機械的に統合するのではなく、地域との合意形成を最重要視する必要がある。禍根を残すと子供たちに心理的なダメージを与えてしまうこともある」と話す。

山本氏は生野区の事例にも言及し「少人数学級で学力が上がったという事例こそあるが、学校の規模と教育的効果の関係性が検証されているわけではない」と指摘する。(北野裕子)

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