北京冬季五輪・パラリンピックも閉幕してやっと一息。スポーツ庁はこの春4月からの第3期スポーツ基本計画では新たな視点として「する」「みる」「支える」そして新しく「つくる/はぐくむ」スポーツの関わり方を追加し、生産消費の仕組みを背景に「スポーツ共創ワークブック(2018)」が公表されるなど多様性や共生社会に向けた「つくる」スポーツへの注目が高まっています。ここで見逃してはいけないのはスポーツ「共」創や「共」生社会といったキーワードにひそむ「共(とも)に」行うことの重要性です。「コ・ワーキング」「コ・リビング」などと英訳されますが、この「コ」の関わりがスポーツにおいても強調されつつあります。
スポーツには競技団体やファンコミュニティーを中心としたサービスがありますが、その仕組みはコミュニティー内の「個」に向けたプロダクトやコンテンツにとどまりがちです。企業や団体から消費者に向けたBtoCのビジネスがほどんどの中、「ともに」進める「コ」のスポーツビジネスはCtoCに焦点を当てたスポーツが生み出す横のつながりに注目したもので、アスリート同士やファン同士のつながりを拡張させる点に特徴があります。
2017年に横浜スタジアムに隣接してオープンした「The BAYS」では横浜DeNAベイスターズが自ら施設運営し、地元企業や大学の研究室、個人のクリエイターが参加するシェアオフィスを設け、ファンや企業の垣根を越えた横浜好き、チーム好きによるつながりの場となっています。「共創で実現する横浜スポーツタウン」の実践は、チームやスタジアムでのビジネスやスポーツ施策にとどまらず、駅前再開発などのまちづくりや横浜市域、神奈川県域にまで広がるスポーツビジネスを包摂した拠点として機能しています。23年に球場が開場予定の「北海道ボールパークFビレッジ」ではボールパークを核とした共同創造によるまちづくりを打ち出しています。36万7千平方メートルの広大な計画地に新球場を中心とした公園や住宅、オフィス、商業施設、医療、教育にいたるパートナー企業との都市開発を行っています。
共創の広がりは施設や球場などにとどまりません。22年から始動したラグビー新リーグの「ジャパンラグビーリーグワン」では「事業共創パートナー」を打ち出し、金銭的なスポンサードにとどまらない積極的に事業に関わることのできるパートナービジネスを通じて、ともに新しい事業価値と社会価値の創造を目指すとしています。参加者同士の関わり合いの仕組みを提供・活用するビジネスはプラットフォームビジネスとも言われます。スポーツ庁自らオープンイノベーションプラットフォームを構築するなどスポーツ共創の取り組みは今後さらに加速しそうです。「共創」することで「共感」できる価値を生み出し「共生」できる社会につなげる。「個」と「コ」が共存するスポーツビジネスだからこそ成り立つのかもしれません。
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上林功(うえばやし・いさお)1978年11月生まれ、神戸市出身。追手門学院大社会学部准教授、株式会社スポーツファシリティ研究所代表。設計事務所所属時に「兵庫県立尼崎スポーツの森水泳場」「広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)」などを担当。現在は神戸市や宇治市のスポーツ振興政策のほか複数の地域プロクラブチームのアドバイザーを務める。
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