フレンチ、サウナから水族館まで コロナ禍で進む「おひとりさま」サービス その行く末は

ジンベエザメなどが泳ぐ水槽を独り占めできる海遊館の「閉館後の海遊館 心を満たす、静寂の海」=大阪市港区(同館提供)
ジンベエザメなどが泳ぐ水槽を独り占めできる海遊館の「閉館後の海遊館 心を満たす、静寂の海」=大阪市港区(同館提供)

新型コロナウイルス禍で注目を集める「おひとりさま」を狙った商品が、拡大を続けている。ひとりフレンチ、ひとりキャンプ、ひとりサウナからひとり水族館まで、続々と新サービスが登場。3密回避だけでなく、周囲の目を気にせず独り占めできると人気を呼んでいる商品もある。おひとりさまサービスは今後も定着するか。

閉館後の海遊館

照明を落とした薄暗い館内に広がる漆黒の〝海〟に、巨大なジンベエザメがゆったりと泳ぐ。他の水槽ではアシカやアザラシが体を寄せ合って眠り、手を伸ばすとカマイルカが近くまで寄ってくる。

大阪を代表する観光スポット「海遊館」(大阪市港区)で開かれた夜間イベント「閉館後の海遊館 心を満たす、静寂の海」だ。一人客(16歳以上)を対象にするという初の試み。10分ごとに設けられた予約時間で、閉館後の夜間の海遊館をまわる。次の時間帯の予約客も控えているが、人数を少数に抑えており、ほぼ独り占めの状態で見学できることが特徴だ。

2月末に開かれた同イベントを訪れると、普段は立ち入れないバックヤードに通され、太平洋を模した深さ9メートル、最大幅34メートルの巨大水槽を見下ろす場所から魚たちを眺めることができた。「何時間でも滞在したい…」。訪れた女性らからはこんな声も漏れた。

「おひとりさまの需要がこれだけあるとは思いませんでした」

企画した同館営業部運営チームの宇野道さんは驚く。昨年11月からこれまでに3回(計14日間)行ったイベントは毎回好評。参加者の8割は女性だった。

コロナ禍で来館を見合わせる客が増えたことを受け、密集の回避など感染防止対策の徹底を主に打ち出していたが、SNSなどで「人数めっちゃ少ない! 水槽を見放題! 立ち止まってもしゃがみこんでも迷惑かけない」と思わぬ反響があった。「一人に少し抵抗があったが、おひとりさまでも楽しめるという広告を見て行こうと思った」(20代女性)との声も寄せられ、おひとりさまのニーズを掘り起こした。

宇野さんは「周りもおひとりさまなので、お互いの観賞を邪魔しないで静かさを楽しんでいるようだ」と話す。今後も企画を続けていく予定だ。

女性限定企画も

飲食事業でも、女性をターゲットにしたおひとりさま需要の開拓が進む。神戸ポートピアホテル(神戸市中央区)は女性限定の「おひとりさまフレンチ」(1万円)を4月30日まで展開。女性の一人客を対象に要望に合わせたメニューを作り、当日は「人目が気にならない」席に案内する。

企画を担当した同ホテルの中村佑帆さんは「コロナ禍でおひとりさまでの食事の需要が増え、気軽にホテルを利用いただければと考えた。20代、30代の女性に来てもらうきっかけづくりが狙い」と話す。

コロナ禍以降、すし、串揚げと女性の「おひとりシリーズ」を展開し、すしは2カ月の利用客約40人と目標を達成するなど好調。男性が中心だった一人での利用に可能性を開いたとする。

気を使わずに

SMBCコンシューマーファイナンスが昨年3月にまとめた30~40代男女への意識調査によると「おひとりさま消費」にお金をかけたとした人は80・4%と前年の調査より約20ポイント増加。1カ月あたりの平均消費額も約4200円増の9637円と大幅に増えており、一人で楽しむ娯楽や食事などへの消費を活発化させていることがうかがえる。

岩井コスモ証券の有沢正一投資調査部長は「一人消費への潜在的なニーズに、コロナ禍が拍車をかけたのでは。大勢で楽しまなくても友人とはSNSですぐにつながるし、気を使わずに済む一人消費に向かっている」と指摘。「自分のためにお金を投じる分、サービス、商品に対する消費者の目は厳しくなる。より質が問われる」とする。

付加価値を高め

実際、付加価値を高め「高級化」を試みる動きも。2月中旬にオープンした男性限定のプライベートサウナ「MENTE(メンテ)梅田店」(大阪市北区)は、黒とグレーを基調としたシックな内装の個室サウナを4室そろえる。サウナ後の水シャワー、外気浴による休憩が可能なスペースまで、一連の動線すべてを一人で使えるプライベート空間で過ごす。

横になるなど自分のペースで楽しめるプライベートサウナの「MENTE梅田店」=大阪市北区(同店提供)
横になるなど自分のペースで楽しめるプライベートサウナの「MENTE梅田店」=大阪市北区(同店提供)

「共有スペースだと他の方に気を使うが、好きなタイミングで楽しめる」(統括マネジャーの増田遥さん)。料金は80分で5千円(初回は6千円)と決して安くはないが、非接触であることも受けているという。

女性も安心して楽しめるようにと、旅館の敷地内でのキャンプを企画した磨洞温泉涼風荘(津市)は「旅館の利用者が減少するなか、新たな機軸を打ち出したかった」と話す。

「磨洞温泉涼風荘」の敷地内にあるミニキャンプ場=津市(同旅館提供)
「磨洞温泉涼風荘」の敷地内にあるミニキャンプ場=津市(同旅館提供)

おひとりさま需要は今後どうなっていくのか。大阪経済大人間科学部の小松亜紀子准教授は「おひとりさま消費には寂しそうとネガティブに見られる部分もあるが、コロナ禍で密を避けることが推奨され、心理的抵抗が減った」と分析。令和2年には単身世帯が4割近くに達するなど一人消費が広がる素地があることから「今後も市場開拓は進むと考えられる」と話している。(上岡由美)

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