ロシアのウクライナ侵攻(戦争)から目が離せない。当初、ここまでウクライナが粘ることを予想できた人は少なかったのではないか。現代戦は、係争の正当性をめぐる情報戦が国内外の世論を大きく左右することを改めて認識させられる。そんな中、圧倒的不利と目されていたウクライナが国内外の協力を勝ち得た最大の立役者は、同国のゼレンスキー大統領であろう。
米政府からのキエフ脱出の提案を断ったとされ、「独立と祖国を守るため、私はここにいる」と決然たる姿勢を示した。その姿に鼓舞された国民は軍に志願し、あるいは火炎瓶を自作してロシア軍に立ち向かい、大統領の支持率も侵攻直前の41%から91%へと上昇。当初支援に及び腰だったドイツやスウェーデン、そして北大西洋条約機構(NATO)非加盟のフィンランドや欧州連合(EU)非加盟のノルウェーまでも相次いで武器の供与を発表。ポーランドに至っては、戦闘機の供与まで申し出た。実際に国外脱出を拒絶したのかは不明だが、そのようなメッセージを発信し、戦争を指導する姿勢を示した意義は大きい。
対照的に思い出されるのは、昨夏、米軍完全撤収を前に首都カブールから国外に脱出したアフガニスタンのガニ大統領だ。迫るイスラム原理主義勢力タリバンに親米政権は瞬く間に瓦解(がかい)、カブールは陥落。あの折のバイデン米大統領の言葉「アフガン国軍自身が戦おうともしない戦いで、米国人が死んだり戦ったりすることはできないし、すべきでもない」を、日本人は肝に銘じるべきであろう。
米国の政権が代わるたびに、「尖閣は日米安保条約第5条の適用範囲」との言質を得て総理も防衛相も安堵(あんど)の表情を見せるが、自らの領土領海を体を張って守る姿勢を見せない限り、アフガンと同じ運命をたどることをゆめゆめ忘れてはならない。
ウクライナからわれわれが学ぶべきは、「平和を愛する諸国民の公正と信義」が信頼できるなどという夢から覚め、言葉による「戦争反対」は無力だと悟り、「自分の国は自分で守る」と腹をくくることだ。その姿勢があってこそ初めて他国も手を差し伸べるのだから。
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【プロフィル】葛城奈海
かつらぎ・なみ やおよろずの森代表、防人と歩む会会長、ジャーナリスト、俳優。昭和45年、東京都出身。東京大農学部卒。自然環境問題・安全保障問題に取り組む。予備役ブルーリボンの会幹事長。近著に『戦うことは「悪」ですか』(扶桑社)。