急迫する災害や事故の現場で人命救助ができるヘリコプターは極めて重要だ。ところが、ヘリの本格的なシミュレータを持つ訓練施設は少ない。4月オープンのヘリ訓練施設「フジトレーニングアカデミー」(静岡県牧之原市)は、ヘリ特有の振動までを再現する模擬飛行装置「フル・フライト・シミュレータ(FFS)」を導入するという。国内初の、優れモノのシミュレータを体験してみた。
このシミュレータは海上保安庁や消防などでも運用されるヘリ「AW139」を再現。高さ約8メートル、幅6メートルの外観は、白い球体を6本の支柱が支えている。まるで近未来の乗り物だ。球体の内部に操縦席が設置され、大型スクリーンが広がる。支柱はコンピューター制御で伸縮し、上昇、下降の浮遊感から、微妙な振動まで体感できる。
実際に乗り込むと、前方に静岡空港近辺の3D映像が浮かんだ。操縦席に座り、シートベルトを締めた。シミュレーションがスタートし、離陸すると、ふわっと身体が持ち上げられるヘリ独特の浮遊感がやってきた。
場所や日時、天候は訓練途中でも変更でき、夜間、悪天候下の操縦シミュレーションも可能という。もちろん救助を想定とした訓練もできる。指導を担当する古謝(こじゃ)秀盛さん(62)は「(ロープでつり上げる)救助時の振動まで詳細に再現されており、ほぼ実機に近い」という。
さらにFFSにはエンジン火災などの故障事象が270種類以上設定されており、組み合わせて多様な緊急非常操作訓練ができる。機体のトラブルを実際のヘリで再現させるのは難しいため、実戦的な訓練を何度もできるのは極めて貴重だ。
このほか、施設内には「フライト・トレーニング・デバイス」と呼ばれる揺れのない飛行訓練装置があり、型式の違うAW139型とAW109SP型の基礎訓練ができる。
また、整備士による機材点検などの訓練も行えるように、AW139の実際の機体が「メンテナンス・トレーニング・シミュレータ(MTS)」として用意されている。
一刻を争う災害現場で人命を救助するヘリにはスキルの高いパイロットや整備士が欠かせない。最新シミュレータなどを使った実戦的な訓練ができる施設は、私たちの命や暮らしを守ることにつながっていると感じた。
(写真報道局 鳥越瑞絵)