フェルメールと17世紀オランダ絵画展㊦ 繁栄の中で 虚栄への戒めも

ヤン・デ・ヘーム《花瓶と果物》1670-72年頃 ドレスデン国立古典絵画館 © Gemäldegalerie Alte Meister, Staatliche Kunstsammlungen Dresden, Photo by Elke Estel/Hans-Peter Klut
ヤン・デ・ヘーム《花瓶と果物》1670-72年頃 ドレスデン国立古典絵画館 © Gemäldegalerie Alte Meister, Staatliche Kunstsammlungen Dresden, Photo by Elke Estel/Hans-Peter Klut

オランダの典型的イメージといえば、チューリップと風車の田園風景だろう。16世紀にオスマン帝国から欧州にもたらされ、オランダで栽培が盛んになったチューリップ。色鮮やかな花は人々を虜(とりこ)にし、やがて重要な輸出品に成長。現在に至るまで、オランダは花の輸出大国として知られている。

幾重もの花びら、輝くホオズキの実、透き通ったトンボの羽…。精緻な静物画で名をはせたヤン・デ・ヘームの「花瓶と果物」には、季節の異なる花々と果実、群がる虫たちがこれでもかと描き込まれ、闇を背に鮮やかに浮かび上がっている。よく見ると、花びらには露が光り、花瓶に画室の窓まで映り込む芸の細かさ。そして、花束の中のチューリップにも注目を。

1630年代のオランダでチューリップの球根への投機が過熱、いわゆるバブル経済が人々を混乱に陥れたのは有名な話。黄と赤、白と紫が混じる画中の2輪も、高値が付いた人気品種の可能性が高いという。

17世紀後半、オランダ社会の富裕層は絵の中にも豊かさを求めていった。「花瓶と果物」の濃密で華やかな画面は、時代の求めでもあったのだろう。静物画と同様にオランダで発展した風俗画でも、ヘラルト・テル・ボルフの「白繻子(しろじゅす)のドレスをまとう女」のように流行の装いや有閑の暮らしを描いた作品が好まれた。

ヘラルト・テル・ボルフ《白繻子のドレスをまとう女》1654年頃または以前 ドレスデン国立古典絵画館 © Gemäldegalerie Alte Meister, Staatliche Kunstsammlungen Dresden, Photo by Hans-Peter Klut
ヘラルト・テル・ボルフ《白繻子のドレスをまとう女》1654年頃または以前 ドレスデン国立古典絵画館 © Gemäldegalerie Alte Meister, Staatliche Kunstsammlungen Dresden, Photo by Hans-Peter Klut

後ろ向きで身支度をする女性。その表情は永遠の謎だが、テーブル上の鏡には虚栄、世のむなしさの寓意も。

海上貿易を軸に経済的繁栄を遂げたオランダの17世紀は、戦争の世紀でもあった。スペインからの独立戦争終結後も英国、フランスとの戦争が国を疲弊させ、ペストなど疫病で多くの人命も奪われた。戦争と感染症の脅威は、21世紀のいまなお去らない。花も人の命も、この世の繁栄も永遠ではないことを、オランダ絵画は思い起こさせる。(黒沢綾子)

「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」は、東京・上野公園の東京都美術館で4月3日まで。月曜休(3月21日は開室し翌22日休)。日時指定予約制。詳細は公式サイト(https://www.dresden-vermeer.jp/)で確認を。

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