主張

拉致と岸田首相 「最重要課題」はお忘れか

北朝鮮による拉致被害者家族会と支援組織「救う会」は13日、合同会議を開き、政府に「親世代が存命のうちに『全拉致被害者の即時一括帰国』を実現せよ! 私たちは決して諦めない!」と要求を突きつけた。

前日には昨年12月に83歳で亡くなった家族会前代表、飯塚繁雄さんのお別れの会が開かれたばかりだ。拉致被害者、横田めぐみさんの母、早紀江さんは86歳、有本恵子さんの父、明弘さんは93歳の高齢となり、家族会が設けた「親世代が存命のうち」とするタイムリミットは、悲痛な叫びにも似る。

お別れの会には岸田文雄首相も出席し、「拉致問題は岸田内閣の最重要課題です。総理大臣として自ら先頭に立ち、すべての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべくあらゆるチャンスを逃すことなく全力で取り組んでまいります。繁雄さんの御(み)霊(たま)を前に改めて強い決意を申し上げます」と弔辞を読んだ。

岸田氏は13日、総裁として自民党大会で演説し、夏の参院選に向けた課題を挙げて「ウクライナ、コロナ、新しい資本主義、そして憲法」と強い口調で述べた。

いずれも重要な課題であることはもちろんだが、前日、「内閣の最重要課題」と故人の御霊に決意を語った、拉致の「ら」の字もないのはどうしたことか。たった1日で忘れてしまったか。

こうした言動が家族会や支援団体をどれだけ失望させるか、首相は知るべきである。日本政府は拉致問題に重きを置いていないと、喜ぶのは北朝鮮だけだろう。

言葉だけで拉致被害者を取り戻すことはできない。それでも言葉は大事である。とりわけ政治家の言葉は重く大きい。

ロシアのプーチン政権による残虐な侵略に耐えているウクライナでは、ゼレンスキー大統領が言葉で国際社会に理不尽を訴え、国民を鼓舞し続けている。

一方的な暴力による主権侵害という意味では、拉致問題も同様である。岸田氏には首相として、拉致問題を語る責任がある。家族会と怒りを共にし、国民に訴え続けなくてはならない。

独裁者による強権国家の北朝鮮が難しい交渉相手であることは理解できる。だが、国民総意の怒りを背景とする交渉でなければ成果を得ることはできない。トップの覚悟が問われている。

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