北川信行の蹴球ノート

スター降臨どう生かすか、問われるのはカズ加入の鈴鹿だけではない

スタジアムに訪れた観客に手を振る鈴鹿の三浦知良(中央)=四日市市中央緑地公園陸上競技場 (撮影・榎本雅弘)
スタジアムに訪れた観客に手を振る鈴鹿の三浦知良(中央)=四日市市中央緑地公園陸上競技場 (撮影・榎本雅弘)

サッカースタジアムにスターがいる風景は、どこか懐かしかった。長引く新型コロナウイルス禍やロシアのウクライナ侵攻といった暗いニュースをひと時ながらも忘れさせてくれそうな、わくわく感と言えばいいのだろうか。13日に三重県の四日市市中央陸上競技場で行われた日本フットボールリーグ(JFL)の鈴鹿ポイントゲッターズ-ラインメール青森には、鈴鹿に加入した元日本代表FWの55歳、三浦知良の姿を見ようと、JFLでは異例とも言える5千人近い観客が訪れた。

ネガティブなものはなかった

サポーターに手を振る鈴鹿の三浦知良=四日市市中央緑地公園陸上競技場 (撮影・榎本雅弘)
サポーターに手を振る鈴鹿の三浦知良=四日市市中央緑地公園陸上競技場 (撮影・榎本雅弘)

メインスタンド以外はグラウンドレベルとあまり高低差がない芝生席となっているスタジアムの形状のせいもあるのだが、試合が終わると、観客らはJFLデビューを果たした日本サッカー界の「キング」の姿を自身のスマートフォンで撮影しようと、一斉にグラウンドに降り立った。まるで昭和の時代のプロ野球日本シリーズで日本一が決まったときのような、光景が繰り広げられた。その是非はともあれ、観客の盛り上がりは、JFLにかつてないほどの輝きを放つスターが降臨した「威力」をまざまざと見せつけた。

もちろん、熱狂を生み出したのは、先発出場を勝ち取った三浦の並々ならぬ努力のたまものである。後半20分までプレーしたこの日はゴールは奪えなかったが、全体の攻守のバランスを考えたベテランらしいプレーが光った。シンプルにパスを回して攻撃のリズムをつくろうとする姿勢は、豊富な経験を持つ三浦がチームのために何が最善かを考えてプレーしている証しのようにも思えた。

試合後の記者会見で、兄の三浦泰年監督は「しっかり準備をしてピッチに立ってくれた。努力している姿は他の選手の成長にもつながっている」と評価。その上で「試合やボールに絡む姿勢は見せてくれた。ネガティブなものはなかった。時間をかけていけば、ゴールも生まれると思う」と手応えを口にした。「子供からおじいちゃんおばあちゃんまで、僕の名前を呼んでくれ、それがモチベーションになっている」と振り返った三浦自身も「本音を言えば、もっとペナルティーエリアの中に入るのをイメージしていたが、全体のバランスを取りながらプレーした。もう少し試合の体力がついてくれば、ゴールチャンスも出てくるんじゃないかと思う」と前向きに話した。

監督には大きなストレス

競技場入りする鈴鹿の三浦知良=四日市市中央緑地公園陸上競技場 (撮影・榎本雅弘)
競技場入りする鈴鹿の三浦知良=四日市市中央緑地公園陸上競技場 (撮影・榎本雅弘)

ただ、三浦の年齢を考えれば、今後も全試合にフル出場していくというのは、現実的ではない。どう効果的に起用していくかは、兄である泰年監督に委ねられる。その采配いかんによって、おそらくフィーバーぶりも変わるだろう。

だが、泰年監督は自信たっぷりにこう話す。「自分はプロの監督であることを自覚している。18歳の選手が成長するのと同じように、55歳の選手も成長し得る。ただ、彼は私にとっては弟。誰よりも良さを知っているつもり。しっかりとこのケースなら勝利に貢献できる、このチームに必要というのを見極め、どの時間にどこで使うのかを考えていきたい」。三浦も自身の特別な立場を「監督を見ていて、いつも大変だと思う。どの監督にとっても、僕は大きなストレスだと思う。いろんなことを考えて使う、使わないを判断しないといけない。大きな賭けもある。そういう苦労をプレーしていて感じる」としっかりと意識している。

だからこそ、兄弟が強みになる。2人がタッグを組み、コミュニケーションを図ることで、鈴鹿にもたらされる有形、無形の「カズ効果」は何倍にもなる。

千載一遇の機会

前半、ヘディングでゴールを狙う鈴鹿・三浦知良=四日市市中央緑地公園陸上競技場 (撮影・榎本雅弘)
前半、ヘディングでゴールを狙う鈴鹿・三浦知良=四日市市中央緑地公園陸上競技場 (撮影・榎本雅弘)

ただ、三浦が加入した恩恵を受けるのは、鈴鹿だけではない。開幕戦で鈴鹿に0-2で破れたラインメール青森の柴田峡監督は「JFLとは思えないほど注目度の高い試合をさせていただいた。この経験はうちだけじゃなく、JFLの他のチームにも言えること。どのチームの選手にとっても、張り合いになる」と話した。

大勢の観客の来場が見込まれるのは、鈴鹿のホーム試合だけではない。迎え撃つ各チームの試合も同様の現象が起こるだろう。そこで、どんな試合を披露するか。観客をうならせ、もう一度来場したいと思わせるプレー、さらに言えば試合運営をできるか。そこにJFLの未来がかかっている。

スター降臨という千載一遇の機会を生かせるか。国内最高峰のJ1から数えて実質4部に相当するJFLにとっては、存在価値を全国に発信する、勝負のシーズンである。

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