ビブリオエッセー通信

話題の超大作は長い旅のように

ついに来たな、と思った。ここ数年、最も話題になった中国版SF、劉慈欣の『三体』(3月9日掲載)である。書いてくれたのは中国から留学中の女子大生、方可歆(ファンカキン)さん。

「話題作とは知らなかったのですが読み始めると物理などの専門用語も多くて大変でした」

そう、読みやすくはない。シリーズは続編の『黒暗森林』上下に完結編『死神永生』上下と続き、ハードカバーで全5冊。文字通り、重量級のエンタメ超大作だ。まとめるのがひと苦労だったでしょう。

「ええ、最初の文革の場面が印象に残ったのでぜひ書いてみようと思ったんです。でもSFに慣れていないし、中国語版でも確認しながら。時間がかかりました」

地球人対三体人の物語は次第に疾走感が出て山あり谷あり、圧倒されつつどこまでいくねんという感じの長い旅を小欄も終えた。大阪万博、月の石世代にとっては懐かしさも感じ、訳者の大森望さんが「『コンタクト』と『幼年期の終り』と『果しなき流れの果に』をいっしょにしたような」と書いているのを読んで思わず膝を打った。

「AIの出てくるおすすめのSFも教えてください」と方さん。こういう会話がうれしい。ぜひ完結編に進んで最後を見届けてください。

そこでSFから天文学へ。その果てしなき宇宙を見つめ続ける人たちがいる。石浜英さんが投稿した『天文台日記』(3月11日掲載)も味わい深い。「中学生の私が読んだ本をもう一度読みたくなって」と石浜さん。聞けば188センチの反射望遠鏡は第一線を退いたそうだがこの本は著者の天文学者、石田五郎さんが夜空に追いかけたロマンを追体験できる。石浜さん、「中学生の私」を思い出しましたか。

『三体』に戻ろう。完結編の終盤、地球文明を刻んだ壁のくだりでパンテオンのルソーの墓を思い出す場面がある。彼の主著が『社会契約論』。ビブリオエッセーには3月8日に登場した。この欄に社会科学の古典が投稿されるのは珍しい。

「読んだのは昨年秋、衆院選の頃でした。昔は理解がおよばなかったところを再挑戦しようと思って」と福島健太さん。「一般意志」という概念は確かに難しい。だから年を経て何度も読む。読み方が変わるかもしれない。古典のゆえんだろう。

最後に絵本『風が吹くとき』にふれたい(3月3日掲載)。Y・Kさんも中学の頃に見たアニメ映画を思い出し、「あの怖い映画、絵本をもう一度読まねば」と思ったそうだ。

ジムとヒルダの老夫婦は勃発した核戦争で被曝した。祈るしかない。「死の谷を兵士は進む」とつぶやく二人。これはSFだろうか。(荻原靖史)

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