露侵攻で食材高騰に拍車、飲食店「コロナ自粛と二重苦」

ロシアによるウクライナ侵攻の影響で値上げが予想される海産物=14日午後、東京都中央区(鴨志田拓海撮影)
ロシアによるウクライナ侵攻の影響で値上げが予想される海産物=14日午後、東京都中央区(鴨志田拓海撮影)

昨年来、家計を直撃している原油高や食料品の価格高騰に、ロシアのウクライナ侵攻が拍車をかけている。スーパーなどが苦渋の決断で値上げする中、消費者には買い控えの動きも見え始めている。新型コロナウイルス禍で客足が遠のく飲食店は、売り上げ減と材料費増とのダブルパンチに悲鳴を上げている。(太田泰、浅上あゆみ)

しょうゆ10~15円、小麦粉10~20円、サラダ油約20円…。東京都足立区のスーパーに並ぶ食料品の平均的な価格は昨年末に比べ、軒並み値上がりしている。同居する50代の息子に家計を支えられている主婦(84)は「無駄遣いせずに切り詰めて生活しているが、今後が不安だ」と嘆く。

スーパーの男性責任者によると、問屋からの仕入れ値の上昇に加え、原油高で電気代が上がり、店の運営経費もかさんでいる。「店でできる工夫もすでに限界に来ている。商品価格を上げざるを得なかった」と苦しい胸の内を明かす。

こうした状況に、ロシアのウクライナ侵攻が追い打ちをかけている。両国は小麦など穀物の輸出大国。ロシアは有数の産油国でもある。ロシアへの制裁措置に伴う需給逼迫(ひっぱく)の懸念から、国際相場では小麦、原油とも上昇傾向にあり、国内価格に反映されるのは避けられない。ロシア産に頼る海産物の供給が滞ることへの不安も広がっている。

東京都中央区築地の鮮魚店「三宅水産」では、すでにロシア産のベニザケやウニなどを2割ほど値上げした。空輸されるノルウェー産サーモンもロシア領空の飛行禁止を受け、供給に影響が出ている。三宅正人社長(53)は「できるだけ安く提供したい。これ以上の値上げは売り上げにも響く」と話す。

品川区でパンを製造・販売する「こみねベーカリー」では小麦の仕入れ値が約2割上昇し、材料費全体ではコロナ禍前より月約50万円負担が増えた。店主の小嶺(こみね)忠さん(52)は「小麦の値上げ幅が全く見通せない。価格の据え置きも正直ギリギリのところだ」と不安を募らせる。

コロナ禍の影響が収まらない飲食店では、材料費高騰による〝二重苦〟に見舞われている。「月島もんじゃ振興会協同組合」(中央区)の松井勝美理事長(71)は「キャベツや小麦、マヨネーズ、食用油などの物価高で、材料費が全体的に5~10%ほど上がっている」と打ち明ける。

現在も蔓延(まんえん)防止等重点措置が適用中で、月島地域にあるもんじゃ焼き店の平日の利用客はコロナ禍前の2~3割ほどに落ち込む。「多くの店が価格を上げずに頑張っているが、かき入れ時の週末にも客が戻りにくい状況が続き、途方に暮れている」(松井さん)

原油高は、ハウス栽培で灯油を使用する農家にも打撃を与えている。東京都瑞穂町で花卉(かき)農家を営む50代男性は「灯油問屋からは『これほど高い値段になったことはない』と聞くが、農家にとってもかなりの痛手だ」と声を落とす。

園芸用のミヤコワスレやランタナが出荷準備を迎えているが、光熱費は例年の約2~3割増加。花を運ぶ業者への運賃だけでなく、石油を原料とするプラスチック製の鉢やトレーも値上がりしているという。

野村総合研究所の木内登英(たかひで)エグゼクティブ・エコノミストは中長期的な予測として、「日本国内でもガソリンや灯油、電力料金などのさらなる値上がりをもたらす可能性がある」と指摘。「原油高は輸送コストの増大などで結果的に多くの商品価格に影響を及ぼすことになり、市民生活へのマイナスの影響が大きい」と危機感を示した。

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