書評

『オオルリ流星群』伊与原新著 45歳、ロスジェネの人生は

伊予原新著『オオルリ流星群』
伊予原新著『オオルリ流星群』

バブル崩壊後の就職氷河期に社会に出た人々は「ロストジェネレーション」と呼ばれ、非正規雇用が多く、さまざまな困難に直面している。伊与原新の『オオルリ流星群』は、45歳になったロスジェネ世代の男女が、高校時代の仲間と小さな天文台作りに挑む長編小説だ。

舞台は神奈川県秦野市。親から受け継いだ薬局を営む久志は、音信不通だった同級生の彗子と再会する。夢を叶(かな)えて国立天文台に就職したはずの彗子は、秦野の不動産屋で山を探していた。任期付き研究員の職を失い、丹沢に自分の天文台を建てるつもりだという。彗子の帰還によって、高校の文化祭で空き缶タペストリーを作った6人の人生が、28年ぶりに交差する。

薬局の売り上げ減に何も手を打てずにいる久志、番組制作会社を辞めて弁護士を目指す修、笑顔の裏にあきらめを隠しながら惰性で教師の仕事を続ける千佳、機械メーカーに勤めていたがうつ病を患って実家にひきこもっている和也、能力があって努力もしたのに常勤研究員にはなれなかった彗子、そして謎を残して19歳のときに死んだ恵介…。和也のうつ病の原因と、人気者だった恵介の秘密があらわになるくだりは痛切だ。

また、司法試験勉強中の修が唱える「45歳定年制」は印象深い。ロスジェネ世代は新卒時の職業の選択肢が少なかったため、非人間的な働き方を強いられている者もいる。「そういう連中こそ、思い切って新しい道へ打って出るべきなんだよ」と修は主張する。守るべき家庭を持つ久志や千佳は現実的ではないと感じるが、彗子は45歳に限らず「ある程度歳をとったからできるってことは、あると思う」と言う。自分で天文台を作る計画も、物事にはいろんなやり方があると知った今の年齢だからこそ思いついたと語るのだ。

資金は乏しく、10代の若者のような体力もない。そんな40代の男女が、知識とネットワークを生かして天文台を作り上げていく過程には胸が高鳴る。天文台の名前になる「オオルリ」は、丹沢に渡来する青い鳥だ。メーテルリンクの『青い鳥』の結末を引き合いに出しつつ、幸せとは何かを問う物語になっているところも本書の魅力。ラストシーンは息をのむほど美しい。(角川書店・1760円)

評・石井千湖(書評家)

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