サッカーの選手経験はない。録画したJリーグの試合を繰り返し見てはノートを取り、本場の欧州や南米も旅してひたすら戦術観察眼を磨いた。その知見を生かしサッカーショップ店長の傍らつづったブログが評判となり、現在は社会人チームで戦術分析に携わる。
「運動神経が悪くて、体育、中でもサッカーは一番嫌いでした。でもボールをまともに蹴れない人間がこんなにもわくわくできる深い知的領域があるんです」
現代サッカーの戦術史をたどる本書で、一大革命を起こした名監督として詳述されるのが表紙の人物。ボール支配と選手の位置取りを徹底させ、スペインのFCバルセロナなどで圧倒的な勝率を残したグアルディオラだ。敵将も当然、対抗策を練る。ボールは相手に持たせてスペースを封じる。精力的なプレスとハイテンポな攻撃…。日進月歩の戦術から壮大な知の歴史と人間ドラマが立ち上がる。20世紀を代表するオランダの天才、クライフに学んだグアルディオラが、師の教えを現代風に洗練させたように。
「勝利を目指す以上、戦術のせめぎ合いは続く。その必然から生まれる進化が面白い。ただ、最先端の戦術も、実は50年前の発展形ということがある。温故知新、繰り返すんですよね。サッカーを、点ではなくて過去からつながる一本の線で見る魅力がここにある」
一方で「サッカーはルールがシンプル。自由度が高く余白が多いのが醍醐味(だいごみ)」とも。制約を打ち破る「個のひらめき」の妙味は今も変わらない。最終章で提示されるこの競技の未来像は意外性に富み、夢がある。
今月、日本代表はカタールW杯出場がかかる大一番に臨む。「11人が一つのビジョンを共有し、一糸乱れぬ連携をされたら相手も嫌なはず。サッカーに必要なのは、限られたスペースで細かな方向転換を繰り返す軽自動車のような動き。日本人には向いていると思うんですよ」(光文社新書・1034円)
(海老沢類)
◇
【プロフィル】龍岡歩
たつおか・あゆむ 京都市のサッカークラブ「おこしやす京都AC」(関西1部)の戦術分析官。昭和55年、東京都生まれ。ブログ「サッカー店長のつれづれなる日記」が話題に。