書評

『死の医学』駒ヶ嶺朋子著(集英社インターナショナル新書・968円)科学が解明する臨死体験

『死の医学』(インターナショナル新書)
『死の医学』(インターナショナル新書)

『死の哲学』というような本は多数あっても、ありそうでなかった『死の医学』。医師による科学エッセーだ。医学は生かすためのものだから、死と並べてあるのはドキリとしてしまう。だが、医学ほど死と身近なものはないだろう。「恐怖以外で死を迎えることができるだろうか」と本書にあるが、私もまさにそれが気になっていた。指の間からのぞくようにして読んでみた。

著者は脳神経内科医だが、哲学を学び、それから医学を学び、詩人でもあるという特殊な経歴の持ち主。それだけに本書の内容も独特だ。医学、哲学、芸術を自在に行き来する。死について語るには、実はそれがとても大切だということが、読むうちにだんだん分かってくる。

「臨死体験」という言葉は、平成3年にNHKで放送された「立花隆リポート 臨死体験」で広まったそうだ。私も見たおぼえがある。オカルトと思われていた現象が、科学的に研究され始めたことに驚いたものだ。

しかし、その後は知らなかった。この本を読んで初めて、臨死体験、幽体離脱、金縛り、憑依現象、ドッペルゲンガー(分身)などが科学的に解明されつつあることを知り、衝撃的だった。バーチャルリアリティーによって、体外離脱体験を誘発できるという、驚くべきことも書かれている。しかも、その体験によって、死への恐怖が和らぐという報告も。

耳寄りな話だが、問題点も。「より好ましくない将来を導く可能性も」あるとのこと。

これだけで一冊になりそうな濃い内容だが、実はまだ最初のほう。さらにたくさんの最新研究や臨死体験が紹介されていて、そこからの考察が深い。

死の定義は複数存在するそうだ。「尊厳死」と「安楽死」の差も私は分かっていなかった。「人道的な看取りは、安楽死ではなく尊厳死で実現される」

個人的には、医療のケアのゴールを患者の死とせず、「周囲の人間がその死を受容するまでに延長することも必要」という著者の提言に胸を打たれた。死ぬほうだけでなく、死なれるほうにまで著者は目を向けている。遺族の「急激な高血圧はだいたい二ヶ月続くことが多い」そうだ。「だいたい四十九日間」

評・頭木弘樹(文学紹介者)

会員限定記事会員サービス詳細