これからが旬「のらぼう菜」 みずみずしい春の味覚

収穫が近いのらぼう菜と青木周一さん。冬が寒かったため味が期待できるという=東京都あきる野市(酒巻俊介撮影)
収穫が近いのらぼう菜と青木周一さん。冬が寒かったため味が期待できるという=東京都あきる野市(酒巻俊介撮影)

「のらぼう菜」という野菜をご存じだろうか。アブラナ科の葉もの野菜で、生産されているのは東京都多摩地域や埼玉県のわずかな地域。地元で消費されることがほとんどという〝幻の野菜〟だ。間もなく旬を迎える産地で、その味を確かめてみた。(内田優作)

 みずみずしいのらぼう菜(酒巻俊介撮影)
みずみずしいのらぼう菜(酒巻俊介撮影)

東京都あきる野市の生産者、青木周一さん(56)を訪ねた。のらぼう菜は8月中旬に種をまき、暖かくなる3月中旬から収穫が始まる。食材になるのは、中心の茎から横に伸びる「脇芽(わきめ)」の部分。青木さんが摘んだばかりののらぼう菜を口にしてみると、茎の品のいい甘みと葉の苦みが広がる。みずみずしく、くせがない。

生産で重要なのは寒さと暖かさのバランスだ。のらぼう菜は寒い冬に甘みを蓄えるが、暖かくなければ大きく育たない。一方で急激に暖かくなって育ちすぎても、茎は筋ばって食感が落ちる。都心よりも寒く、霜の当たる時間の長いあきる野市西部は生産に適した場所だという。

青木さんらJAあきがわの生産者約30人は、平成17年から「のらぼう部会」をつくって集団で出荷している。「すぐにしなびてしまう」ことから、現在の出荷エリアは農協管内の3カ所だけ。「午前9時に売り出して9時半には売り切れる」という人気を誇る。

あきる野市や青梅市などの東京・多摩地域では、江戸時代から「闍婆菜(じゃばな)」の名で栽培されてきた。当時一帯を治めた関東郡代の伊奈備前守忠宥(ただおき)が種を配って育て方を指南する古文書も残されており、「春に至別の味」などの記述には古くから親しまれていた様子がうかがえる。天明、天保の飢饉(ききん)でものらぼう菜が住民を救ったという話が残る。

気になるのは食べ方。おひたしにするのが一般的で、青木さんの楽しみは「冬はホウレンソウ、小松菜。春の訪れとともにのらぼう菜を食べる」というものだ。ゆでた茎をマヨネーズで食べるのも「より甘みが引き立つ」とすすめてくれた。

のらぼう菜レシピコンテストに寄せられた料理「のらぼう菜のそばずし」(JAあきがわ提供)
のらぼう菜レシピコンテストに寄せられた料理「のらぼう菜のそばずし」(JAあきがわ提供)

そんなのらぼう菜には新たな息吹も吹き込んでいる。

のらぼう菜のレシピコンテストに寄せられた料理「のらぼう菜の中華炒め」(JAあきがわ提供)
のらぼう菜のレシピコンテストに寄せられた料理「のらぼう菜の中華炒め」(JAあきがわ提供)

地元のJAあきがわは平成29年に「のらぼう菜レシピコンテスト」を開催した。寄せられた37のレシピは青々とした葉が鮮やか な「かき揚げ」やシャキシャキとした食感が味わいをふくらませる「焼き春巻き」といったものから、束ねたそばとともにのりで巻いた「のらぼう菜のそばずし」「ホットケーキ」まで和洋さまざまだ。JAあきがわの担当者は「くせがないからどんな料理にでも合う」と話す。

 のらぼう菜のレシピコンテストに寄せられた「のらぼう菜のパリパリ春巻き」(JAあきがわ提供)
のらぼう菜のレシピコンテストに寄せられた「のらぼう菜のパリパリ春巻き」(JAあきがわ提供)

初春の日が差す畑ではのらぼう菜が所せましと収穫を待つ。青木さんは「一番大変なのは出荷かもしれない。春だからチョウが卵を産みつけたり、かがんで葉を収穫してひざを痛めたり…」と笑う。収穫は彼岸を過ぎたころから始まりそうだ。「今年の冬は寒かったので、おいしくなるはずです」。青木さんの目が輝いた。

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