JR町田駅(東京都町田市)からバスに乗って20分ほど。畑や林が点在するのどかな場所を歩いていると、ある庭先で、アルパカたちがくつろいでいた。食事の最中だったのか、モグモグと口を動かしながら、興味津々といった様子でこちらに鼻を近づけてくる。
なぜ、こんなところにアルパカが…。
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「慣れるまでに時間がかかりましたが、今ではとてもなついてくれるようになりました」
そう話すのは、飼い主の刑部(ぎょうぶ)登志子さん(65)。腰をかがめると、昨年生まれたというまだ小さなアルパカが親しげに飼い主に顔を寄せた。飼っているアルパカは、この子を含めて7頭いる。
市内で訪問看護ステーションなどを運営する刑部さんは、ここで障害者短期入所施設「きららアルパカハウス」を営み、入所者もエサやりなどでアルパカと触れ合っている。
アルパカは南米のペルーなどに生息する草食動物で、性格はおとなしい。毛を目的に海抜数千メートルのアンデス山脈周辺で放牧され、人間との歴史は古くまでさかのぼる。
刑部さんがアルパカのことを知ったのは、今から10年ほど前。癒やされるし、かしこい動物-。そんなフレーズでテレビ番組で紹介されているのを見たとき、いつしかアルパカを飼うことが夢になっていた。
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飼い始めたのは3年前の夏。研修にも行ったという栃木県内の牧場から、まずつがいで2頭を購入した。その後、新型コロナウイルス禍の影響で閉園した福島県内の牧場から2頭を引き取るなどし、現在の場所で3頭の子供が生まれた。
アルパカの世話は孫たちや職員も手伝う。以前は一緒に散歩することもあったが「人が集まって密になってしまう」(刑部さん)ので、最近はあまりしていないそうだ。小屋には冷暖房が入り、排泄(はいせつ)物を流すための下水道も備えている。敷地内には柵で囲った運動場もあるため、今は散歩の代わりにこちらで運動させることが多い。
食費については「専用のエサは1頭当たり1カ月で1万円ほど」。ただ、「スーパーで買ったり、もらったりしたキャベツを与えることもありますが、喜んで食べてくれます」と笑う。
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やはり珍しい動物は人目を引くのだろう。取材時も通りかかった何人かが、スマートフォンで写真を撮っていた。近くの70代男性は「やっぱり見ていて癒やされるし、家族に写真を見せると喜んでくれる」と笑顔をみせた。
緊急事態宣言が解除されていた昨年末、アルパカを連れて市内で行ったイベントには、多くの人が訪れたという。「夢はアルパカに囲まれたのんびりライフ。将来はアルパカが好きな子供から大人、障害者や高齢者も集える場所にしたい」
都内の庭先という意外な場所にいたアルパカたち。いつの間にか違和感が消え、周囲に溶け込んでみえるのは、癒やしの魔力のせいかもしれない。(太田泰)