朝晴れエッセー

振り子時計・3月12日

「3回目のワクチンは、ファイザーかモデルナのどちらにされますか」

主治医は、それぞれの特徴を説明してくださる。しかし、スーパーで洋人参と金時人参を比べるようにはいかない。選ぶなんて無理だ。失礼を承知で尋ねる。

「先生は、どうされるんですか」

先生は、私のとまどいに寄り添ってご自身の選択を真摯(しんし)に教えてくださる。

ここだ。私がこの先生に惹(ひ)かれるのは。

被接種者の選択に任せるしかないとはいえ、私のような不安のかたまりさながらの人間を、ほっとかない。

お世話になって十数年。先生は凜凜しい女性だ。私は手首を差し出す。「先生、私、脈がないんです」「あら、ほほほ」

先生は決して馬鹿にしない。「こめかみで見てもいいんですよ」

頼もしい後継者ができた頃、先生は勤務時間を半日にされた。生きている限り平等に降り積もる時間。体力の目減りにはあらがえない。そんなことも理由の一つだろうか。寂しい。

「時間ができたら本を読もうと思ったんだけど、長時間だと目がショボショボするのよ」

待合室に大きな振り子時計がある。恩師と思われる方と先生ご夫妻のお名前が記されている。開院以来、この医院で時を刻んできた守り神だ。私は通院の度に目を合わせる。地域の健康を担ってくださる先生をお守りください。

季節は巡り、医院の庭に水仙が咲き始めた。

岩藤由美子(68) 岡山市南区

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