ビブリオエッセー

自分の星と対話が始まる 「天文台日記」石田五郎(中公文庫)

ゆっくりとドームが開き、口径188センチ反射望遠鏡の巨砲がお目当ての星を追いかける―。この本は現在の岡山県浅口市にあたる竹林寺山の山頂、岡山天体物理観測所での1年間の観測日誌である。

といっても1970年代の話だ。現在は国立天文台ハワイ観測所岡山分室と名を変えているが、当時の星々との静かな対話がユーモアたっぷりに綴られている。著者の石田さんはここで長く観測を続けた。

私も半世紀近く前、中学の図書室でこの本を見つけた。最近になって旅先の四国から大阪への帰路、山陽自動車道を走行中、眼前の夕景に突如、竹林寺山の天文台が浮かび上がった。懐かしくなってこの文庫を手に入れ、再読した。

開くと当時の瀬戸内の風光があふれだす。まだ瀬戸大橋もなかった時代。背後に伯耆大山という大パノラマ。天文台の毎日はイロハガルタで覚えているらしい。「いのいちばんはメイン・スイッチ」で始まる。

石田さんが狙った一つは愛称「ドラ息子」、竜座のミュー星である。冬は寒さに耐えながら星を見つめ続けた。山上の春夏秋冬、駆け回る番犬コロ。記録するのはデジタル以前の写真乾板で、星待ちの曇天の夜もあり、待機室の通称「深夜喫茶」ではお気に入りのクラシックやジャズが流れ、心を静めた。そんな時代。

石田さんはすでに故人だ。かつては東洋一を誇り、数々の業績を残した188センチ反射望遠鏡も主力の座を新鋭機に譲った。しかし山上のドームは健在だ。実は188センチが本格運用された年に私は生まれた。今年はちょうど還暦。コロナが収まったら、また望遠鏡に会いにいきたい。この本を持って。

堺市南区 石浜英(60)

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