和食伝導 金沢から世界へ

人と人のご縁がつないだアラ料理

九州ではアラと呼ばれているクエ
九州ではアラと呼ばれているクエ

先日、福岡でとてもおいしいアラをいただきました。日頃、金沢の市場ではあまり目にすることができない食材ですので、うかがう前から楽しみにしておりました。造りでも焼き物でも鍋でも何でもおいしくいただけるのですが、水揚げ量もそう多くなく、ましてや今回のように30キロ近い良型はなかなか見ることもないので、存分に堪能できたことはうれしい限りです。

アラは誤解されやすいのですが、一般的にはクエと呼ばれている魚で、なぜか九州地方においてはアラと呼ばれているのです。実は同じスズキ目ハタ科に正式にアラという名前を持つ魚がいるのです。その正式なアラは銭屋でもときおり仕入れて使うことがあります。クエに負けず劣らずの高級魚で、しかも大きいものはそうそう水揚げされませんので、競りに登場すると仲買の間では取り合いになるのが常だとか。無論こちらのアラもおいしいことは言うまでもありません。

福岡への旅の本来の目的は、ある方に会うことだったのですが、その前夜、ご縁があり「粋房 太郎源」さんにうかがいました。紹介してくれたのはサンフランシスコ在住で、いくつものIT企業で活躍されてきたホカヤンこと外村さん。この御仁の食べることに関する知識、熱意そして執着心は尋常ではなく、会うたびに驚かされます。そのホカヤンに「博多に行くなら、ここ」とお薦めされたのです。おいしかった料理のみならず、店全体に込められたご主人の心遣いが印象的でした。次から次とご用意してくれる、秘蔵の器が素晴らしく、そしてそれらの由来をご説明くださるご主人の表情が何ともうれしそうで、それらがまるで別のご馳走(ちそう)のようでした。

今回いただいた絶品のアラを味わうために必要だったのは料理人の技術だけではなく、人と人とのご縁であったことを忘れるわけにはいきません。

令和元年10月から書き続けてきたこのコラムも今回が最終回となります。ご愛読いただきありがとうございました。これからも金沢の地から和食の魅力を伝えていきたいと思います。

高木慎一朗(たかぎ・しんいちろう) 金沢の「日本料理 銭屋」の2代目主人。「ミシュランガイド北陸2021特別版」で二つ星と、環境配慮を評価する「グリーンスター」を獲得。

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