ロシアによるウクライナ侵攻から2週間たち、民間人の犠牲が増え続けている。首都キエフでは、戦火を逃れようと避難する人がいる一方、とどまることを決意した市民も少なくない。キエフに家族を残すウクライナ人女性は日本から「母国は必ず勝つ」と信じながらも「一体どれだけの市民が犠牲になるのか。息ができないくらい苦しい」と不安を募らせる。
日本の大学に留学し、現在は日本人の夫(42)と長男(5)とともに大阪市内で暮らす会社員、木岡ユリヤさん(33)は、キエフ市で暮らす家族の身を案じている。
侵攻後、持病のある両親を避難するよう説得したが、ともに「ここは私たちの国だ。死ぬならここで死にたい」。姉からも「夫が戦っている。私だけ離れられない」とキエフに残る意思を伝えられた。
「ウクライナは過去にも命がけで戦った歴史がある。愛国心は人一倍強く、国に誇りを持っている」とユリヤさん。姉の夫や友人の男性たちは武器を手に、ロシア軍から領土を防衛する準備を進めている。国が破壊される現実をみて、ここは自分たちの土地だ、残って少しでも役に立ちたい、という市民は多いという。だが、日に日に情勢は緊迫し、今はいても立ってもいられない気持ちだ。
両親らが住むエリアはまだウクライナ軍が防御しており、電気やガス、水道のライフラインは通じ、食料もあるという。とはいえ、頑丈な地下シェルターはなく、空襲警報のサイレンがなれば、食料を保存するための狭い地下貯蔵庫にもぐるしかない。
「北東のチェルニヒウでは市民が逃げ込んだ学校、マンションにロシア軍が攻撃して犠牲者がでていると聞く。これは戦争ではなく、テロであり、ジェノサイド(民族大量虐殺)だ。こんなひどいことがあるか」。現地から惨状を伝えられるたび、怒りに震える。
「キエフでも近く同様の状況がおきるだろう。ミサイルで攻撃されれば、家はひとたまりもない」
キエフへの包囲網が狭まる中、家族には何度も「早く避難してほしい。ウクライナ軍が国を守ってから、戻って復興に尽くしてほしい」と伝えた。姉は子供を連れての避難を考え始めているようだが、両親にはその気はみられない。
今は無事を願い続けるしかない。両親はSNSのチャット機能を通じて安否確認のメッセージを送ってくる。起きてすぐ、寝る前、夜中に目が覚めたとき―。画面を確認し、メッセージをみつけては「ああ、大丈夫なんだ」と思う。しかし、気が休まるのはその瞬間だけで、数秒後、数分後は分からない。
ユリヤさんの長男も「おじいちゃん、おばあちゃんは大丈夫かな」などと不安を口にするようになった。自身も眠れない日々が続く。
それでも、日本でできることをやろうと救援金の情報発信や、デモへの参加などの行動を続ける。
ユリヤさんは「ウクライナはなくならない。勝ち抜けると信じている」と力を込めた上で「プーチン(大統領)を止めるには、ロシア国民や周辺国の力が必要。ウクライナの現状を世界の人に知ってもらいたい」と訴えた。(田中一毅)