国内企業が新規株式公開(IPO)や社債の発行を見送る動きが相次いでいる。ロシアのウクライナ侵攻に伴う原油価格の高騰や経済制裁による市況の悪化で投資家がリスク資産を避ける動きが強まり、企業が当初想定した規模で株式や社債を売却することが難しくなっているためだ。資金調達の環境が厳しくなれば企業の投資減退を招き、景気低迷に直結しかねない。
今年に入り、新規上場の承認を受けた企業がIPOを取りやめたのは、今月10日までに6社にのぼる。7日には上場承認時の時価総額が約3千億円と試算されていたインターネット専業銀行の住信SBIネット銀行が、24日に予定していた東京証券取引所への上場延期を発表。「ウクライナ情勢や最近の市場動向などを総合的に勘案した」と理由を説明しており、延期の期間は現時点で未定という。
9日には同様の理由で大阪のバイオベンチャー、レパトア ジェネシスが新規上場の中止を発表。ある証券会社幹部は「現状の市況下では個人投資家のリスク許容度もかなり低下しており、IPOは必然的に減っていくだろう」とみる。
この傾向は社債市場にも広がっている。2月に入ってENEOSホールディングス(HD)や東京電力HDと中部電力が出資する発電会社JERAが、脱炭素向けの資金を調達するグリーンボンド(環境債)やトランジションボンド(移行債)の発行延期をそれぞれ決定。日本航空も移行債の10年債発行を延期した。
社債は多くの買い手を付けるため国債よりも高い利回りに設定され、急激なインフレで主要国の中央銀行が政策金利を引き上げる今の局面では資金調達の負担が増す。野村証券の荻野和馬シニアクレジットアナリストは「ウクライナ情勢と金利動向が落ち着くまでは、社債市場も不安定な状況が続く」と分析。資金調達環境が安定化するのは4月以降になるとみている。(西村利也)