候補者個人の資質には疑問を抱えつつ、政権交代を求める声が選挙戦を通じ一貫して大勢を占めたことが尹錫悦(ユン・ソンヨル)候補の勝因となった。対日交渉を事実上放棄していた現政権とは異なり、新政権では実質的な韓日協議が加速するだろう。ただ、外交の前提となる韓国国内の当事者間の意見調整で課題を抱えることになり、政権発足直後に両国関係が劇的に改善すると期待するのは早計だ。
南北問題を民族同士で解決したい進歩(革新)政権から、韓日米の協力を前提に北朝鮮と対峙(たいじ)する保守政権に代わる以上、対日姿勢が軟化するのは間違いない。問題は国内対策だ。国会では6割近い議席を持つ野党を相手にすることになり、社会の二極化が深刻化する中で対日融和に対する左派団体の反発は歴代政権に比べても大きいだろう。
朴槿恵(パク・クネ)前大統領の保守政権当時も、韓日関係の改善を望む米国の圧力を受けて慰安婦問題の韓日合意に至ったが、韓国国内のとりまとめに失敗した。まずは、新政権が戦後訴訟問題の当事者と積極的に交渉し、誠意を示す必要がある。
国内をまとめられなければ「被害者中心主義」を掲げながらも当事者とは交渉せず、その結果日本側に解決策を提示できなかった現政権の失敗を繰り返すことになる。日本政府も「韓国の内政問題」と突き放せば解決には至らない。歴史問題に向き合う姿勢は「おわびと反省」を示してきた歴代政権と変わらない、と表明することが不可欠だ。(聞き手 時吉達也)