【ソウル=桜井紀雄】9日投票の韓国大統領選は開票作業が続いた。文在寅(ムン・ジェイン)政権下でぐらついた日米韓安全保障協力の立て直しを一貫して訴えてきた保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソンヨル)前検事総長に対し、革新系与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)前京畿道(キョンギド)知事は対日不信感を隠さない。どちらが勝利するかで韓国の対日政策は大きく変わりそうだ。
投票が迫った3日未明、尹氏はソウル市内のマンションの一室で、中道系野党「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)代表と向かい合っていた。両党の議員2人が同席する中、テーブルには缶ビールが4本だけ。焦点だった尹、安両候補の一本化について安氏が決裂を通告していたものの、尹氏側の働きかけで最後に設けられた席。缶ビールはコンビニで急遽(きゅうきょ)買ってきたものだった。
両党関係者らによると、「政権交代の使命を2人で果たそう」と説く尹氏に、安氏は「どう信頼を保証するのか」と問うた。
尹氏は「私は迅速に決めるタイプだが、独りではしない。多くの専門家の意見を聞いて決定する」と述べ、安氏に「人材を幅広く用い、ともに政府を築こう」と訴えた。選挙経験に勝る先輩格の安氏を口説き落とした瞬間だった。
広く専門家の意見を取り入れるのは、「素人」ゆえの尹氏の政治スタイルだ。
尹氏は文政権と対立し、昨年3月に検事総長を辞任してから、広く外交安保分野の専門家に教えを請うてきた。
そして昨年6月に迎えた出馬会見。外交ブレーンには懸念があった。記者から日本に関する質問も予想されたが、想定問答が準備されていなかったのだ。
尹氏は会見で、文政権は左派イデオロギーに凝り固まり、「韓日関係は回復が不可能なほど壊れた」と即興で痛烈に批判。日本とは「未来世代のために実用的に協力しなければならない関係だ」と強調した。
今年2月のテレビ討論会でも、米大統領に次いで日本の首相と会談すると断言し、文政権下の「親中・親北外交で崩れた韓米・韓日関係を正常に回復することが優先だ」と主張。韓国国防省の元幹部は「外交安保では一貫性が大事だが、尹氏は日米との自由民主主義の価値共有という原則に揺らぎがない」と評価する。
一方、李氏は「実用外交」を掲げ、悪化した日韓関係の改善を目指している。陣営幹部も「日本との関係改善の意志ははっきりしている」と断言する。ただ、日本を「侵略国」と呼ぶなど対日不信は根深く、李氏が大統領に就任すれば、日韓関係が一層悪化する可能性も否定できない。
李氏は、日本との関係では歴史問題と経済協力などを分けて対応する「ツートラック戦略」を掲げる。文政権の路線の継承を意味する。だが、日韓関係悪化の根源であるいわゆる徴用工訴訟問題については、メディアの取材に「解決方法は日本政府が見いだすべきだ」と答え、慰安婦問題も含め、「日本の真摯(しんし)な謝罪と反省だけが唯一の解決策だ」と突き放した。