露「ウクライナが核開発」喧伝 侵攻正当化へ新たな口実

ロシアのプーチン大統領が、ウクライナは核兵器や生物兵器といった大量破壊兵器の開発を進めているとの主張を強調し始めた。当初はウクライナ侵攻の口実として、露系住民の保護や北大西洋条約機構(NATO)の拡大に対する自衛という「大義」を前面に掲げたが、露国民の理解は得られていない。侵攻を正当化するために新たな口実をつくり上げようとしている可能性がある。

プーチン氏は5日、「ウクライナには核兵器を開発し、保有できる能力がある」と述べ、ウクライナの核保有はロシアにとって脅威になると強調した。

これまでにもプーチン氏は「ウクライナは核武装まで求めている」と述べたことはある。しかし今回は、露メディアが6日、一斉に「ウクライナは核開発を実際に進めていた」と伝えるなど、様相は異なった。

国営ロシア通信は露軍が制圧したチェルノブイリ原発周辺で、放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」を製造していたと報道。タス通信はウクライナが「数カ月以内」に核兵器を獲得するとの露当局者の話を伝えた。ともに明確な証拠は示されていない。

さらに露国防省は同日の発表で、ウクライナが炭疽(たんそ)菌などの病原体を使った生物兵器を開発し、その証拠の隠滅を図っていたとも主張した。

プーチン氏は2月24日の侵攻開始にあたり、「特別軍事作戦」の目的として、「独立」を承認したウクライナ東部の親露派2地域の露系住民保護とロシアの防衛を強調した。ウクライナの「非軍事化」や、親欧米派のゼレンスキー政権の転覆を指すとみられる「非ナチス化」の実現も挙げた。

だが、露国内では、国営テレビが政治宣伝を繰り返し、情報統制も強化されているにもかかわらず、国民の反戦デモが収まる気配はない。ウクライナ側は拘束したロシア兵に対する尋問の様子を公開し、多くの兵士が「現場は作戦の意味を理解できていない」などと証言している。

プーチン政権はこのため、ウクライナが核兵器や生物兵器を開発しているとの疑いを喧伝(けんでん)し、侵攻の正当性を補強しようとしているとみられる。

ロシアはウクライナ侵攻後、チェルノブイリ原発のほか、南部のザポロジエ原発も掌握し、小型研究用原子炉を持つ「物理技術研究所」がある東部ハリコフも陥落させようとしている。こうした動きには「核兵器開発」を裏付ける「証拠」をつくり出そうとの思惑があるとも指摘される。

ただ、ロシアの専門家はウクライナの核兵器製造能力を疑問視し、国際原子力機関(IAEA)も核開発の兆候を認めていない。むしろ侵攻の「大義」を示そうと苦慮するプーチン氏の姿が浮き彫りになっているともいえる。

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