天災×人災…想定外を超えて

③ 忘れられた教訓 首都直下地震にどう備える

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横浜市の男性会社員(66)は寝入りばな、スマートフォンの警報音でたたき起こされた。今年1月16日未明。南太平洋・トンガ沖の火山噴火に伴う「津波」の緊急速報メールだった。警報音は朝まで断続的に鳴り響き、横浜市内では20回に上った。

当時、神奈川県に津波警報は出ておらず注意報だけだった。本来は配信の必要がないメールで、システムを設計したNTT東日本側の設定ミスが原因だった。

「翌日が仕事で参りましたが、東日本大震災の津波を見た以上、こうした仕組みは必要だし…」。男性は苦笑した。

実際、県に寄せられた約900件の問い合わせの半数超は「複数回の(・・・・)配信はいらない」というもの。県くらし安全防災局の青木淳担当課長は「深夜の配信で迷惑をかけたことは間違いない」と断りつつ、「有用性自体は理解されていると感じた」と振り返る。

政府の地震調査委員会は首都直下地震(マグニチュード7級)の発生確率について、令和2年1月時点で今後30年以内に70%としている。一定程度高まった意識は東日本大震災が見せつけた「想定外」の教訓だ。

だからこそ、今回のミスは「いざというときの『おおかみ少年』になりかねない」(青木担当課長)。県は再発防止策として、これまでの自動配信を手動に切り替えた。しかし、切迫感と併せてどう伝えるかは、まだまだ試行錯誤が続く。

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昨年10月、東京23区で東日本大震災以来となる最大震度5強の地震が起きた。この地震で新交通システム、日暮里・舎人ライナーの車両が脱輪し乗客3人が負傷した。震災でもパンタグラフが外れて脱線しており、新型車両から改修を施したばかりだった。

運行する都交通局は新たに、緊急地震速報を受信した際に、全列車を自動停止させるシステムを導入した。「いたちごっこ」といえなくもないが、想定外をつぶす作業は地道だ。

もちろん、想定のレベルを高めても、現時点で十分な対策が取れているわけではない。昨年10月の地震は発生が午後11時近く。東日本大震災ほどではなかったが、鉄道の運休により主要駅では帰宅困難者が続出した。地震から4時間後にはほぼ解消したとされるが、JR東日本のまとめでは36万人超に影響した。

実際に首都直下地震が起きればどうなるか。平成24年に都がまとめた被害想定では、都内の広範囲で震度6強以上の揺れを観測し、会社や学校などにとどまれる人を除き、いわゆる「雨ざらし」の帰宅困難者が約92万人発生すると見込まれる。受け入れを表明している民間ビルなどの一時滞在施設は令和4年1月現在1155カ所で44万3千人分。半分にも満たない。

確保が進まない背景に訴訟リスクへの懸念がある。受け入れた帰宅困難者が施設内でけがをした場合、管理者や所有者が責任を問われる可能性がないとはいえないのだ。

 東日本大震災では、東京都内でも電車の運転見合わせが相次ぎ、東京駅前はバスを待つ人であふれた=平成23年3月11日午後6時1分
東日本大震災では、東京都内でも電車の運転見合わせが相次ぎ、東京駅前はバスを待つ人であふれた=平成23年3月11日午後6時1分

二の足を踏む事業者を後押しするため、都は今年4月から建物の規模や管理形態などに応じた受け入れマニュアルの作成に着手する。都総合防災部の萩原健担当課長は「事業者の不安やニーズを反映させ、スムーズな受け入れに向けてより具体的なものを作りたい。イメージがわけば一時滞在施設への協力も増えるのではないか」と語る。

都は現在、人口増加などを踏まえ、首都直下地震の被害想定を改定している。4~5月ごろに公表する予定だが、帰宅困難者の想定はさらに増える可能性もあり、これを踏まえた上での対策が求められている。

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