ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ロシアと約1300キロの国境で接する北欧フィンランドで北大西洋条約機構(NATO)加盟に向けた議論が熱を帯びている。旧ソ連・ロシアを刺激しないよう歴史的に中立を守ってきたフィンランドが、プーチン露政権の暴挙を目の当たりにし、外交・安全保障の路線を転換する可能性が出てきた。
「欧州は戦争状態にある。(NATO加盟の問題は)徹底的に議論する必要がある」。フィンランドのマリン首相は2日、記者団にこう述べ、議会でNATO加盟問題を議題とする方針を示した。ウクライナ侵攻後、世論はNATO加盟に傾きつつある。
国営放送局「YLE」が2月23~25日に18~80歳の約1300人を対象に行った世論調査では、53%がNATO加盟申請に賛成し、反対の28%を上回った。賛成が過半数に達したのは初めてだった。加盟申請について国民投票を求める市民団体は2月下旬、1週間で5万人以上の署名を集め、政府に提出した。
フィンランドは東西冷戦期、米主導のNATOとソ連中心のワルシャワ条約機構のいずれにも属さず、中立を貫いた。従来、中立の道を歩んだ歴史を評価する国民が多く、YLEの世論調査結果は「歴史的」(ヘルシンキ市民)と評されている。
1917年にロシアから独立したフィンランドは、第二次大戦中にソ連と戦火を交え、国土の約1割を奪われた。ソ連を敵に回すことを恐れたフィンランドは戦後の48年、西側の国として唯一、ソ連と友好協力相互援助条約を締結。同条約には、他国がフィンランド経由でソ連に攻撃をしかけた場合、フィンランドにその国との戦闘を義務づける内容が含まれていた。
フィンランドはまた、反ソ的な政党やメディアの活動を制限することを余儀なくされていた。独立を維持しつつ、実質的にソ連の衛星国に近かったフィンランドのあり方は「フィンランド化」とも呼ばれてきた。
フィンランドはソ連崩壊後も、ロシアと緊張関係になるのを警戒してNATO加盟の論議を避けてきた。しかし、プーチン政権の侵略行動がウクライナ以外の近隣国に向けられることも危惧されるに至り、NATO条約第5条が定める「集団防衛」の必要性が認識され始めている。
NATO加盟をめぐる議論は北欧スウェーデンにも波及しており、9月に予定される総選挙で争点になる見通しだ。英紙フィナンシャル・タイムズによると、フィンランドとスウェーデンは相互の防衛協力を強化しており、加盟に関しては両国が足並みをそろえるとみられている。
ロシア外務省のザハロワ報道官は2月下旬、両国がNATOに加盟した場合には「深刻な軍事的・政治的結果をもたらす」と恫喝(どうかつ)した。フィンランドでは「NATO加盟を求めたウクライナの二の舞いになる」(軍事専門家)と、ロシアの報復を恐れる意見が少なくないのも事実だ。(ヘルシンキ 板東和正)