北京パラリンピックでメダルを量産しているアルペンスキー座位の村岡桃佳(25)と森井大輝(41)のチェアスキーには、所属する自動車メーカー、トヨタ自動車の車づくりのノウハウや技術が生かされている。「すべてのセッティングがパーソナライズされ、調整が無段階で可能」(開発チームのプロジェクトリーダー、榎本朋仁さん)という特別仕様のチェアスキーが、今大会の2人の好成績を支えている。
トヨタ自動車がチェアスキー開発に乗り出したのは2015年。前年に入社した森井の思いを受けてのものだった。前回の平昌(ピョンチャン)大会で、森井はトヨタ自動車と、車いすや医療・福祉機器を製造している日進医療器が共同でつくりあげたチェアスキーを駆使し、男子滑降の銀メダルを獲得。その後、同大会で日本人最多のメダル5個を手にした村岡も加わり、今大会に向けた開発がスタートした。
携わったエンジニアはトヨタ自動車だけで約50人。森井のチェアスキーは平昌大会の荒れた雪面でスキー板との接合部分に予想以上の負荷がかかった経験を踏まえ、フレームをつくり直してターンの際のねじれなどへの強度を高くするとともに、エッジを立ててなめらかに滑れるように改良した。衝撃を和らげるサスペンションは足裏でバランスを取る仕組みから着想を得て開発。その硬さやシートの位置も細部までこだわり、100パターン以上を試してきたという。
また、小柄で滑降時の風の抵抗が記録に響きやすい村岡のチェアスキーは、脚を覆うカウルの形状やシートの実験を重ね、空気抵抗係数が平昌大会のモデルよりも9%低減。ターンで体を深く傾けた際に柔軟性と硬さのバランスが取れるようにカーボン材の厚さや繊維の使い方も工夫した。体を測定して村岡にフィットするようつくられたオリジナルとなっている。
榎本さんは「自動車で培った解析技術や実験評価技術が生かされている」とした上で、「パラスポーツでは、用具は体の一部。2人にフィットした用具開発を進め、支えていきたい」と話している。(北川信行)