ビブリオエッセー

なんて切ない命の物語 「生き物の死にざま」稲垣栄洋(草思社文庫)

娘の家族が2年ぶりに帰省した。新型コロナの影響で長く会えなかったのだ。今はそのときの写真を見返しては孫の成長を楽しんでいるが、ふと隣に写り込んでいた自分の姿を見て、ちょっとがっかりした。

考えれば当然のことで、話しながら娘と2人、「若さをバトンタッチしたってことで生き物の役目を果たしたんや」と笑い合った。

そんなとき、この本を書店で見つけた。著者は雑草生態学が専門の農学博士。身近な虫や動物、海洋生物など29の生き物の最期をつづった科学エッセーである。

「セミ」の章から引き込まれた。「セミは必ず上を向いて死ぬ」という。仰向けとはいえ「セミの目は体の背中側についているから、空を見ているわけではない」。繁殖行動の務めを終え、死を待つセミの目に映るものは地面なのだ。これを読んで涙が止まらなくなった。

次の章は「ハサミムシ」。なかなか怖い見かけだが、母親が卵を守り続け、40日以上も飲まず食わずで丹念に世話するそうだ。最期が衝撃だ。ようやく生まれた子どもたちの餌となって死ぬのだという。タコのメスもまた、産みつけた卵を危険な海で守り、何カ月も絶食する。

なぜヒキガエルは危険を顧みず道路を横切るのか。生まれた池と森の往復を繰り返していたのだ。逃げることも避けることもなく。読み進むうちに自分が彼らの一生を生きているような気がした。死を悼む動物といわれるゾウの一生は自然科学というより人生論のようだ。

どんな生き物もその細胞に組み込まれたプログラムに従って生きているのだろうか。どれも切ない命の物語だ。シミやシワなど些細な老化に一喜一憂している自分が情けない。

堺市南区 堀江美和子(66)

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