書評

『ばらまき 河井夫妻大規模買収事件 全記録』 金権政治なくならぬ理由 

選挙の結果が金銭で左右されることは許されない。それが民主主義の大前提だ。しかし、令和元年7月に行われた参議院広島県選出議員選挙では大規模な買収事件が起きていた。

本書『ばらまき』は「世紀の愚行」ともいえる広島の大規模買収事件を地元紙・中国新聞の記者たちが追った記録である。

この事件では、国会議員の夫(河井克行氏)と参院選に立候補した妻(河井案里氏)が選挙区内の地方議員や有力者100人に現金を配っていた。総額は判明しただけで2871万円。河井夫妻の有罪は令和3年に確定したが、現金を受領した県内の首長、地方議員40人を含む100人は一人も起訴されなかった。同年中に自ら辞職した政治家は8人にとどまった。

本書には、買収した側の論理はもちろん、現金を受け取った側の見苦しい言い訳やふるまいが余すところなく記録されている。恥ずべき金権選挙の実態を後世に残し、未来を考える資料として十分な価値がある。

本書の出版から1カ月余りが経過した今年1月28日、事件は再び大きな局面を迎えた。検察審査会が現金を受け取った100人のうち35人を「起訴相当」、46人を「不起訴不当」と議決し、再捜査を求めたのだ。この議決を受け、さらに7人の政治家が辞職した。それでもなお、現金を受け取った政治家の半数以上が職にとどまっている。

私は3年4月、案里氏の「当選無効」によって行われた再選挙を現地で取材した。再選挙には10億円を超える経費がかけられたが、投票率はわずか33・61%だった。大規模買収が行われた選挙と比較すると11・06ポイントのマイナスだ。私は「買収行為が行われない選挙の投票率はこの程度なのか」と大いに落胆させられた。

この時、広島の有権者が私に語った言葉は忘れられない。

「あんな事件が起きて広島が全国的に注目された。ものすごく恥ずかしい。じゃけぇ、今回は選挙に行かん!」

一部の者だけが選挙に関わっている限り、金権政治はなくならない。選挙では、年収1億円を超える人も無収入の人も「同じ価値の一票を持つ有権者」として平等だ。もっとも有効な意思表示は投票することである。(中国新聞「決別 金権政治」取材班著/集英社・1760円)

評・畠山理仁(みちよし)(フリーランスライター)

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