アンテナ付きユリカモメ撮れた! 研究者を探してみると…

不忍池そばに飛来したユリカモメ。足輪と、背中にアンテナがある=令和4年1月29日、東京都台東区(鵜野光博撮影)
不忍池そばに飛来したユリカモメ。足輪と、背中にアンテナがある=令和4年1月29日、東京都台東区(鵜野光博撮影)

あれ、この鳥、背中にアンテナが付いてる-。1月下旬、東京都台東区の不忍池で偶然、記者が撮影したユリカモメ。撮影時は気づかなかったが、タブレット端末で見返すと、背中にアンテナ、そして足環が付いていた。誰が、何の目的で付けているのだろう。オホーツクの海を越えてきた渡り鳥に導かれて、調査研究に取り組む人々に会うことができた。

足環を付けたのは…

バサバサッと記者の至近に白い鳥が降り立った。不忍池の近くで取材を終えて休んでいた記者は、あわててカメラのピントをこの鳥に合わせた。飛び立つまで10秒あまり。見返した写真には、背中のアンテナがはっきりと写り、足環には「1Y」の文字が見える。

飛び立つユリカモメ。背中にアンテナが見える=令和4年1月29日、東京都台東区(鵜野光博撮影)
飛び立つユリカモメ。背中にアンテナが見える=令和4年1月29日、東京都台東区(鵜野光博撮影)

インターネットで「ゆりかもめ 足環 東京」と検索すると、東京ウォータータクシー社(港区)が目撃情報の提供を呼びかる記事がヒット。写真と情報をメールで送ると、すぐに返信があり、山階鳥類研究所(千葉県我孫子市)の研究者の名前が分かった。

「直接ここに連絡してくれる人の方が多いんですよ」。研究員の澤祐介さん(38)は、この鳥が今年1月9日に隅田川の吾妻橋で足環を付けられ、2・6キロ離れた不忍池に飛来し、性別は不明で、今年の5~6月に2歳になるという情報を教えてくれた。足環は両足にあり、「小さい方が環境省の委託で付けている金属の足環。カラーリングはプラスチック製で2010年から私が自分の研究として付けています。文字が大きくて見やすいので、捕まえなくても『帰ってきたんだな』と確認できますから」という。

山階鳥類研究所の研究員、澤祐介さん(鵜野光博撮影)
山階鳥類研究所の研究員、澤祐介さん(鵜野光博撮影)

ちなみに、鳥は体重の4%以下の重さなら足環や発信機を装着しても生存に影響がないとされており、この調査では3%以下の重さに抑えられている。

都市の鳥を次代に

澤さんがこれまでに足環を付けたユリカモメは約400羽。今シーズンは2月上旬までに約160件の目撃報告があり、そのうち都内は約130件だった。

調査研究で分かったことは、ユリカモメたちはロシアのカムチャツカで夏を過ごし、10月から翌年4月まで日本に滞在する。渡るルートはカムチャツカから北海道網走市、宮城県を通って東京へ。東京で止まらずに、三重県や兵庫県など関西方面まで行く個体もいる。ただ、福岡までは行かない。

「福岡にもユリカモメはいるので、調べると、朝鮮半島経由で渡っているようです」と澤さん。

今後の調査研究では、朝鮮半島経由のルートや、平均寿命の解明などがテーマになるという。

ところで、アンテナは。

「これは共同研究者の学生さんのものです」。その研究者、放送大学大学院生の竹重志織さん(28)がオンライン取材に応じてくれた

オンライン取材に応じたユリカモメの研究に取り組む竹重志織さん
オンライン取材に応じたユリカモメの研究に取り組む竹重志織さん

アンテナは衛星利用測位システム(GPS)のもので、研究テーマは「都市における水鳥の移動経路として河川が備えるべき条件の解明」。竹重さんは「水鳥の行動圏は非常に広く、行動の全容を目視だけで調査するのは非常に困難です。今回はユリカモメに絞って、重要な生息地と、その間の移動によく使われる空間を解明するために、GPSを装着して追跡しています」と説明してくれた。

解明する意義は何だろう。

「都市で水鳥が生きていくために、どういった空間を守っていけばいいのかが分かるようになります。緑地に生息する鳥は世界のいろんな都市で研究が行われてきましたが、水鳥についてはあまりスポットライトが当てられてきませんでした」。そして「ユリカモメは古くから浮世絵に描かれたり、歌に詠まれたりしている鳥です。私たちの世代以降にも、ユリカモメがいるような川や都市環境を守っていきたい。それが一番のモチベーション(動機)です」と語った。

効率は悪いが…

鳥の調査はどれぐらいの規模で行われているのだろうか。山階鳥類研究所の自然誌・保全研究ディレクター、水田拓さん(52)によると、環境省の鳥類標識調査では、年間十数万羽が捕獲されて足環を付けられている。目撃情報などが回収されるのは、その数%だという。

「効率の悪い調査に思われるかもしれませんが、渡りのルート、寿命など基礎的な生態が分かります。それ以外にも、ヨーロッパで数が減っている鳥を日本で調べたところ、見ているだけでは分からなかった減少が明らかになり、絶滅危惧種の指定につながることもあります。渡りの時期が変化することで、地球温暖化の影響が見えてくることもあるんです」と水田さん。

前出の澤さんは3月上旬現在、アホウドリの繁殖地として知られる鳥島(伊豆諸島)に渡っている。

鳥島は火山島で、繁殖地としては不安定なため、小笠原諸島の聟島(むこじま)を新たな繁殖地とする取り組みが行われており、同研究所は2月1日、聟島で第3世代のひなが誕生したと発表した。鳥を守ろうとする人々の営みは、各地で続いている。(鵜野光博)

山階鳥類研究所 元侯爵の山階芳麿が昭和7年に開いた鳥類標本館を前身とし、昭和17年に設立された公益財団法人。ヤンバルクイナの発見などで知られる。希少種保護に役立つ研究と、環境省の委託で鳥類標識調査や、鳥インフルエンザに関わる調査も行っている。

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