天災×人災…想定外を超えて

①企業は社員の命を守れるか BCP策定17%、遺族の両親「最善尽くして」

津波に襲われた七十七銀行旧女川支店周辺=平成23年3月20日、宮城県女川町
津波に襲われた七十七銀行旧女川支店周辺=平成23年3月20日、宮城県女川町

東日本大震災の発生から11日で11年。あの揺れと大津波が予想できたのかどうかは裁判をはじめ、あらゆる局面で問われてきた。しかし、それは実際に起き、1万5千人を超える人命が失われた事実は揺らがない。震災だけではなく、「天災」には「人災」の側面が見え隠れして、その被害を拡大させる。災害を想定外で片づけず、命を守るためには-。

 「ささやかな活動が社員の命を守る役に立つなら」と話す田村孝行さんと弘美さん=2月、宮城県松島町(大渡美咲撮影)
「ささやかな活動が社員の命を守る役に立つなら」と話す田村孝行さんと弘美さん=2月、宮城県松島町(大渡美咲撮影)

揺れは、多くの人が職場で働いている平日午後に襲いかかった。その後、沿岸部には大きな津波が押し寄せ、働く人々をのみ込んでいった。宮城県女川町にある七十七銀行女川支店は海から約100メートル。地震後、支店長の指示で従業員13人が2階建て支店屋上(高さ約10メートル)に避難したが、津波で12人が死亡または行方不明となった。町指定避難場所だった堀切山は支店から約260メートル。当時、行内で働き、指示に従って屋上に行った従業員の田村健太さん=当時(25)=も津波の犠牲になった。

「なぜ支店から走って1分ほどの高台に逃げず、屋上に行ったのか」

父、孝行さん(61)と母、弘美さん(59)の疑問はいまだに消えることはない。

田村さん夫妻は、ほかの遺族とともに原因究明や支店の解体取りやめなどを銀行に求め続けた。だが、十分な回答は得られず、支店はもう跡形もなくなった。

「このままでは、健太の死が何もなかったことにされてしまう」

夫妻らは平成24年9月11日、提訴に踏み切った。弘美さんは「息子が誇りにしていた銀行を相手に訴訟を起こすのは苦渋の決断だった」と振り返る。それでも「原因究明と再発防止をしてほしい」との思いがあった。

26年2月の1審仙台地裁判決は「屋上を超える巨大津波を予見することは困難」とし、遺族側の請求を棄却。最高裁で遺族側の敗訴が確定した。

「想定外というが、高台に逃げれば守れた命だった。自然災害ではなく人災だった」

実際、女川支店と同じように、海の近くにあった町内の4つの金融機関の従業員は山に逃げるなどして全員無事だった。

状況を分けたのは、防災や事前準備だけではなく「行内の雰囲気」ではなかったかと夫妻は考える。25歳の健太さんにとって、上からの指示を無視して逃げることが困難だったことは想像に難くない。

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東日本大震災では多くの企業が被災したが、実際にどれくらいの企業が被災したか、実態ははっきりしていない。企業には被災状況を国に報告する義務はなく、国も実態調査をしていないからだ。

そのため、災害などの非常時に社員の命を守るための対策は企業側に委ねられている。震災を機に「事業継続計画(BCP)」の必要性は高まったが、導入が進んでいないのが実情だ。

帝国データバンクが昨年行った企業の意識調査(有効回答企業1万1242社)によると、BCP策定率は17・6%。過去最高となったが、依然として低水準だった。「策定中」や「策定を検討している」を含めても5割ほど。規模別でみると、大企業が32・0%に対し、中小企業では14・7%にとどまった。

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田村さん夫妻は女川町の被災地を訪れる人などに震災の教訓を伝えてきた。令和元年11月には一般社団法人「健太いのちの教室」を立ち上げ、企業の防災力を高める活動も行っている。

大学生の訪問者も多い。就職を控える若者に、柔軟性のある企業か、防災への事前の備えをしているかなど、「従業員の命を守る会社かどうか」を見極めてほしいと伝える。田村さん夫妻の話を聞いた大学生の一人が小学校の教師となり、今月、新潟県内の学校で防災教育を行う。

企業側からの講演の申し込みも増えた。孝行さんは「ささやかな活動がつながり、それぞれが活動を始めてくれることが芽吹きの第一歩」と期待する。

夫妻は銀行側に3月11日には遺族とともに献花してほしいと要望している。夫妻らが建てた慰霊のモニュメントへの訪問も望んでいる。まだかなってはいないが、あきらめない。日航機墜落事故やJR福知山線脱線事故の遺族と交流するなかで、遺族とのやり取りによって企業側が徐々に変わっていったことを知っているからだ。それでも、遺族から働きかけないと変わらない状況は間違っていると思っている。

「命を守るために、企業には最善を尽くす努力をしてほしい」

健太さんのためにも。そう強く願っている。


事業継続計画(BCP) 災害やテロなどの緊急事態に備え、重要業務の継続と復旧ができるように企業が策定しておく事業計画。「Business Continuity Plan」の頭文字を取った。製造業の供給網に被害が出た東日本大震災で認知が広まったとされ、新型コロナウイルスなど感染症への対応も求められている。

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