ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、ロシアでの事業の停止や、撤退を決める欧米企業が相次いでいる。西側諸国による経済制裁が厳しさを増す中、ビジネス環境が悪化していることに加え、ロシアの非人道的な行為に対する強い抗議の意図もある。一方で日本企業には状況を見極めようという慎重姿勢が目立つ。ただ、世界が脱ロシアに向かう中、ビジネスを優先したと受け止められれば、ブランド価値を毀損(きそん)するリスクもある。
「私たちは傍観できないし、そうするつもりもない」。英石油大手シェルのベン・ファン・ブールデン最高経営責任者(CEO)は、2月28日に極東サハリンでの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」からの撤退を表明すると、そう強調した。
シェルだけでなく、ウクライナ侵攻を受けてロシアでの事業を抜本的に見直す欧米企業が相次いでいる。米アップルはロシアでiPhone(アイフォーン)など全ての製品の販売を停止。米ナイキもロシアでのオンライン販売を停止するなど、ロシア離れは加速している。
日本でもソニーグループ傘下の映画配給会社が、ロシアでの新作映画の公開を停止するなど、一部で同調の動きも見られるが少数派だ。トヨタ自動車はロシアの工場を止め、完成車の輸出を停止させるなどしたが、部品供給の問題などが主要因で、制裁的な側面は薄い。
無料通信アプリ「Viber(バイバー)」を提供する楽天グループも、ウクライナの副首相からロシアでのサービスを停止するよう要請を受けたが、ロシアで偽情報が飛び交っていることを理由に「健全なコミュニケーションを維持する」と通信サービスは停止しない方針だ。
ロシアでカジュアル衣料品店「ユニクロ」を50店舗展開するファーストリテイリングや、うどんチェーン「丸亀製麺」を7店舗展開するトリドールホールディングスなども「状況を注視している」と、営業を継続させている。
曖昧な態度を続ける日本企業の姿勢について、明星大の細川昌彦教授は「今回の問題が一時的な制裁で終わると考えているなら大きな間違いだ」と指摘。その上で、「グローバルに事業を展開する企業は投資家の目やレピュテーション(評判)リスクを考えて動かないといけない。経営者は国際秩序の変化への研ぎ澄ました感度が必要で、判断を先送りすべきではない」と話している。(蕎麦谷里志、高木克聡、加藤園子)