政治指導者を選ぶときに舞台裏で重要な役割を果たす人物を〝キングメーカー〟という。日本の政界でも昔からよくそういう陰の実力者がいる。韓国では1980~90年代に盧泰愚(ノ・テウ)、金泳三(キム・ヨンサム)政権を誕生させた金潤煥(キム・ユンファン)氏がそういわれた。知日派だった彼は「50年代の日本で保守合同の立役者だった三木武吉が尊敬する人物」とよくいっていた。
韓国では金鍾泌(キム・ジョンピル)氏もそうだった。60~70年代の朴正熙(パク・チョンヒ)政権下でナンバー2を長くやり「大統領をやらせてみたい人物」といわれた。その後、小政党を率いたためキングにはなれなかったが、結果的に金泳三、金大中政権の誕生に協力した。とくに金大中氏の当選は39万票の僅差だったため功績は大きかった。
今回の大統領選は来週の投票を前に保守陣営の懸案だった候補一本化がやっと実現した。候補を辞退し尹錫悦(ユン・ソンヨル)候補支持を表明した安哲秀(アン・チョルス)氏も、実はキングメーカーの資格十分なのだ。これまで大統領選やソウル市長選でいつもいいところまで行きながら途中辞退し、他候補に譲ってきた。これで尹候補が当選すれば韓国政治史に残るキングメーカーになる。彼は著書『安哲秀の考え』で「私の尊敬する人物」に世界的数学者の広中平祐・元京都大学教授を挙げているが、政治家としては珍しい。(黒田勝弘)