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『風のことは風に問え 太平洋往復横断記』 危機あり、笑いありの航海記

『風のことは風に問え 太平洋往復横断記』(ニッポン放送・1650円)

本書は、キャスターの辛坊治郎さんが、ヨットで太平洋を横断したときの記録です。

令和3年4月に大阪湾を出航して、米サンディエゴへ。そして再度日本に向けて帆を上げ、8月下旬に見事生還しました。往復2万キロ。これは、東京~大阪間を20往復するのに等しい距離です。この間、辛坊さんはどこにも寄港せず、一人でヨットを繰っていました。嵐をどう乗り越えたのか? どうやって孤独に耐えたのか? 食事やシャワーは? 疑問は尽きません。

辛坊さんは、航海日誌をもとに本書を一気に書き上げました。原稿が届く度に、航海を追体験するような気持ちで読み進めました。命の危機にさらされる緊迫した場面もあれば、思わず笑ってしまうパンツの話も出てきます。内容が面白いだけでなく、筆の早さにも驚かされました。1冊分の原稿をおよそ2カ月で書き上げてしまったのですから。おかげで、というか、そのせいでというか、編集者として原稿を取り立てる仕事をしないで済みました。

難航したのは、タイトルをどうするかです。関係者一同頭を抱えていたところ、突破口となったのが、辛坊さんがサインに書き添えるという言葉でした。「花のことは花に問え」。鎌倉時代に活躍した一遍上人の言葉です。「花」のままでは航海記にそぐいませんので、ヨットの命である「風」に置き換えました。

幸いにも本書は、すでに3刷が決まっています。さらに多くの読者に手に取ってもらえればうれしく思います。

(扶桑社出版局 中垣内麻衣子)

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