【シンガポール=森浩】3日夜の日米豪印の協力枠組み「クアッド」首脳会議は、力による現状変更を許容しないとの認識で一致したものの、ウクライナに侵攻したロシアを名指ししての批判は避けた。伝統的にロシアと結びつきが強いインドの意向が尊重されたもようだ。インド・モディ政権の対露融和姿勢に対しては同国内からも異論が見え始めており、インド政府は今後、対応に苦慮しそうだ。
クアッド構成国の中でも、オーストラリアは日米とともにロシアの侵攻を厳しく非難する。既にウクライナに7000万豪ドル(約60億円)分の武器提供を表明した。モリソン首相は4日、「世界各国は圧力をかけることを止めるべきではない」と述べ、さらなる制裁を辞さない構えを見せた。
一方、インドは色彩を異にする。対露制裁を発動しておらず、国連での対露非難決議も棄権した。クアッド首脳会議でも踏み込んだロシア批判は慎重に避けたもようだ。
インドは冷戦時代、「非同盟」を掲げ、東西両陣営から距離を置いた。だが、3度の印パ戦争を経て軍備の近代化を急ぐ中で、低価格、インドの通貨ルピーでの決済可能という有利な条件で兵器を提供したのは旧ソ連だ。その後、軍事面を通じた蜜月はロシアに引き継がれた。近年、インドにとって中国と国境をめぐる摩擦が続く中、ロシアは装備品の有力提供元として無視できない相手だ。
また、ウクライナには2月中旬時点で約2万人のインド人がおり、既に戦闘に巻き込まれて1人が死亡した。ロシアを過度に刺激すれば、自国民の安全確保に影響が出かねず、インドが踏み込んだ批判に出づらい原因の1つとなっている。
ただ、対露融和姿勢を続ければ、日米豪との連携に隙間風が吹く可能性がある。インドにとって中国と対峙(たいじ)する上でマイナスに働く。モディ政権の弱腰ともいえる姿勢に対し、野党国民会議派のチダンバラム元財務相は「勇敢に声を上げ、ロシアに攻撃を直ちに中止するよう要求しなければならない」と指摘。政府に厳しい対応を求めた。