【パリ=三井美奈】欧州連合(EU)各国によるウクライナへの軍事支援が本格化してきた。首都キエフ攻防戦が長期化するにつれ、「紛争地に武器を送らない」としてきた伝統を破って、ドイツやスウェーデンなどが相次いで殺傷兵器の供与を決定した。戦後欧州の「平和主義」は転機を迎えている。
EUでは2月28日、フィンランドがウクライナへの殺傷兵器の供与を発表した。対戦車兵器1500基のほか、自動小銃や弾薬などだ。フィンランドは北大西洋条約機構(NATO)非加盟で、戦後の中立政策からの転換となる。
27日には、同様にNATO非加盟のスウェーデンが紛争に対して中立の立場をとる国是を転換し、対戦車兵器の供与を発表した。北欧ではEU非加盟ながらNATO加盟国のノルウェーも28日、対戦車兵器の供与を表明した。
EUでウクライナに自衛用の殺傷兵器供与を表明したのは、加盟27カ国中、少なくとも18カ国。EU外相理事会が27日、ウクライナに兵器購入費として4億5千万ユーロ(約576億円)の供与を決めたのと前後して、オランダやギリシャなど各国の動きが加速した。EUが交戦国の武器調達を支援するのは初めて。ロシアのウクライナ侵攻が「欧州防衛の戦争」と位置付けられるようになり、決断を迫られた。
ウクライナに対しては、米英が侵攻前から兵器支援を行ったのに対し、EUの西欧諸国は消極的だった。独仏は外交解決を掲げ、ロシアを刺激することを嫌った。だが、露軍が首都キエフへ進軍したことで、空気が変わった。ロシアの「帝国」復活の狙いが浮き彫りになり、ポーランドのモラウィエツキ首相は「次の標的は旧ソ連のバルト三国と、ポーランド」と警告。西欧に意識改革を迫った。
露軍の攻撃を受けるキエフの様子がテレビやインターネットで刻々と伝わったことも、欧州の世論を動かした。ベルリンでは27日、約10万人がウクライナ支援デモに参加した。
ドイツのショルツ首相は27日、連邦議会の演説で、ウクライナへの兵器供与について「プーチン露大統領の侵略を止めるには、ほかに対応策がない」と主張。さらに国防費を大幅に増額し、国内総生産(GDP)比2%というNATOの目標達成を目指すと表明し、与野党議員から大きな拍手を浴びた。