書評

『<問い>から始めるアート思考』吉井仁実著 本質つかみ変革する力を

『〈問い〉から始めるアート思考』
『〈問い〉から始めるアート思考』

変化の激しい現代に適応する力をつけようと、「STEAM教育」が注目されている。つまりScience=科学、Technology=技術、Engineering=工学、Art(s)=芸術(教養)、Mathematics=数学の頭文字。理系の論理的思考の中に、なぜアートがポツンと含まれるのか? 本書にそのヒントを探した。

ビジネス書にも昨今頻出する「アート思考」という言葉だが、アートに特定の思考があるわけではないとアートディレクターの著者は語る。むしろ常に新しい思考を生み出し続けるのがアート。アート思考とは、現代の社会に対して問いを投げかける力=問う力というわけだ。

例えば英国の覆面アーティスト、バンクシーにしても、競売会場で自作をシュレッダーにかけてみせることで、アートに「高い価格を付け、売り買いすることで、人間は何を手に入れることができるのか」と広く問いかけたと著者は推測する。本書は、未来社会を予言するようなサイエンスアートやバイオアート、物理的なモノではなくデジタル資産として取引される「NFTアート」の興隆など、最新の美術動向を押さえつつ、こう力説する。アートでもビジネスでも、問いを見つけ出し、「仕組み」を革新した者が、世を動かすゲームチェンジャーになり得るのだ、と。そしてアートに触れることで、「問う力」を養うことを推奨する。

特筆すべきは、コロナ禍で露呈した、既存の建築や都市における「限界」と新たな可能性について言及している点である。既存の枠組みの限界を感じるといえば、北京で開催のオリンピック・パラリンピックもそうだろう。思えば昨夏の東京五輪も、コロナの影響が大きかったとはいえ、再開発の手段でない21世紀型五輪として、問いや新たな都市の仕組みを世界に提示できないまま幕を閉じた。

いま私たちは信号待ちのわずかな時間でも、手のひらのスマートフォンに「答え」を求めがちだ。データや数値は判断材料にはなるが、あまたの情報の中から本質をつかむ直観力や、これまでにない発想はどう育まれるのか。教育の場でアートが求められる理由がみえてくる。(光文社新書・902円)

評・山嵜一也(芝浦工大特任教授)

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