小型衛星群による“光害”から夜空を救え 天文学者たちが新たな機関を立ち上げた切実な理由

数千機もの小型衛星を宇宙に打ち上げて衛星インターネット接続を提供する衛星コンステレーションの計画が進められる一方で、衛星が発する光や電波が天体観測の妨げになる可能性が指摘されている。こうした問題に対処すべく、世界中の天文学者たちが新たな機関を立ち上げた。

小型衛星2,000機以上からなるスペースXの大規模なインターネット衛星コンステレーション(衛星網)「スターリンク」に、同社が新たに49機を追加した2022年2月3日のこと。天文学者による世界最大の組織が、人工衛星が発する光と電波の干渉から夜空を守るべく新たな機関を発足させた。

この新たな機関「Centre for Protection of the Dark and Quiet Sky from Satellite Constellation Interference(衛星コンステレーションの干渉から暗くて静かな空を守るためのセンター)」を立ち上げたのは、90カ国以上のプロの天文学者たちで構成される国際天文学連合(IAU)である。そのなかには、06年に冥王星を惑星から“降格”させたことで有名な(あるいは悪名高い)天文学者たちも含まれている。

このセンターはアリゾナ州ツーソンにある米国立科学財団の「NOIRLab(ノワールラボ)」(ノワールフィクションではなく光学・赤外線天文学にちなんだ名称だ)と、英国のマンチェスターで電波天文学に注力しているスクエア・キロメートル・アレイ機構が共同運営している。衛星の光と電波干渉が科学的観測に及ぼす影響の軽減についての研究と、擁護活動の調整役として設立された。

「過去に発生した干渉の主な原因は、地上からの“光害”でした」と、初代所長でイタリアのパドバ大学の天文学名誉教授のピエロ・ベンベヌーティは、3日に開かれたオンライン記者会見で語っている。これまで天体望遠鏡で空を観察しようとする天文学者たちが心配してきたのは、無秩序に広がってあちこちで視界を妨げる都市のあかりだった。また、携帯電話や無線ネットワークなど、電波観測の妨げになる無線局や通信信号にも悩まされてきたという。

ところが、いまは悩みの種が変わり、天文学者たちは地上ではなく上空に目を向けている。「衛星コンステレーションによる光跡や赤外線の痕跡、無線通信が、地上からの天文観測にとって現実の脅威になっているのです」と、IAU会長でバッサー大学の天文学者のデブラ・エルメグリーンは語る。

宇宙科学の研究が困難に?

わずか数年で大量の衛星を何度も打ち上げたスペースXのスターリンクは、いまでは空に浮かぶ最大の“人工星座”となった。いまや10万人以上のユーザーにブロードバンドのインターネットアクセスを提供しており、ユーザー数は今後さらに増える予定である。

いまから数年以内には、そこにアマゾンの「プロジェクト・カイパー」や中国の「Starnet/GW」、カナダの「Telesat」といった大規模な衛星コンステレーションも加わる。10万機もの衛星が軌道上でそれぞれ小さな光を放ち、電波信号を地上に向けて発信している可能性があるのだ。

パドバ大学のベンベヌーティらは、もし天文学者の撮影する画像に人工衛星が写り込むようなことになれば、宇宙科学の研究が非常に困難になるのではないかと憂慮している。IAUによる新たなセンターの設立は、これらの衛星コンステレーションの影響に対処し、暗い空を維持することが国際的な優先事項になったことを示していると言っていい。

新しいセンターでリーダーシップをとる多くの天文学者たちは、すでに過去2年の間にオンライン形式のワークショップを開催し、米国の「SATCON」 1や2、国際的な「Dark and Quiet Skies(暗く静かな空)」1や2といった詳細な報告書を作成してきた。いずれの報告書も、地球低軌道上にある数千機の人工衛星の影響に対処するには、さらに多くの取り組みが必要である主張している。報告書「SATCON 2」で触れられている通り、チャンスの窓は「狭く、閉じつつある」のだ。

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