明美ちゃん基金

移植待機 離ればなれの家族、遠い帰郷

「大人用」装着

転院後は補助人工心臓を装着することになった。体重が20キロほどの陽菜さんは小児用補助人工心臓「EXCOR(エクスコア)」を装着するはずだった。

しかし、新型コロナウイルス禍による臓器提供の減少などから、心臓移植を受けエクスコアを離脱する患者がなかなか出なかった。使用可能なエクスコアは全て患者に装着されていた。

一方、体が大きな大人が使う植え込み型補助人工心臓「HeartMate3(ハートメイト3)」なら空きがあった。子供は心臓も小さく血液の流量コントロールが難しい。小さな体にポンプを植え込むリスクもある。しかし、このままでは移植まで命をつなげない。医師団は慎重に検討を重ねた結果、陽菜さんにハートメイト3を装着した。

メリットもあった。約2メートルの管で小型冷蔵庫ほどの大きさの駆動装置につながれ、動く範囲が限られるエクスコアに対し、ハートメイト3の駆動装置は重さ約2・2キロ。常に持っていなければならず負担はあるが、バッグに入るため自由に動き回ることも可能だ。

「ハートメイト3を装着してから、陽菜は格段に元気を取り戻した。感謝しかない」と寛子さん。装着後も順調に推移し、病院側は院外で生活できると判断、25日の退院にこぎつけた。

ささやかな夢

しかし、退院は岩手に帰れることを意味するわけではない。補助人工心臓の故障や血栓の発生、感染症への対応などに備え、陽菜さんは管理可能な病院近くで生活することが求められている。ゆえに帰郷は陽菜さんが心臓移植を受け、元気になることが条件になる。

家族の負担は今後も続く。保健所のパートをしていた寛子さんは仕事を辞めており、一家の収入は減少している。実家の助けを借り妹と弟の面倒を見ながら仕事を続ける父も、必要に応じて上京するが、交通費や宿泊費を考えると、そうそう頻繁にはできない。

それでも、外を元気に走り回った日々が戻ることを家族の誰もが信じ、待ち続けている。

退院した陽菜さんは今、ささやかな夢を抱いている。「大好きなポケモンのグッズがあるポケモンセンターに行きたいな。あと、またラーメンも食べたいな」。元気な子供なら造作もないことを切望する。それが待機患者の現実だ。(橘川玲奈)

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