学芸万華鏡

「OK」マークはNG NHK語学講座の元カリスマ講師が伝授する『英語の新常識』

NHKラジオ語学講座のカリスマ講師として人気を博した杉田敏さん
NHKラジオ語学講座のカリスマ講師として人気を博した杉田敏さん

NHKラジオ「実践ビジネス英語」で昨年3月までNHK語学番組最長の32年半講師を務めた杉田敏(さとし)さん(78)の新著『英語の新常識』(インターナショナル新書)が好評だ。ビジネス英語と取り巻く社会、文化を伝えてきたカリスマ講師がジェンダーなど多様性、新型コロナウイルスのパンデミック下で変化する英語の新常識を伝授している。

杉田さんは青山学院大を卒業後、朝日イブニングニュース記者から米留学。現地紙記者や世界的なPR会社のバーソン・マーステラ本社勤務を経て帰国後、日本ゼネラル・エレクトリック(GE)副社長、バーソン・マーステラ(ジャパン)社長などを歴任した。

この間、GE時代の昭和62年にビジネス英語の講師をはじめ、途中一年半の降板時期をのぞいて令和3年3月まで担当した。

「スタート当時、NHKでビジネス英語というカテゴリーはなく、アメリカでのビジネス経験から番組のスタイルをつくった。一つの分野を切り開いたかなという自負はあります」

番組では「ビニェット」というミニドラマを通じてビジネストレンドや英語表現を学ぶが、これは米国の会社の社員教育プログラムをもとにした新しいスタイルだった。

ノーベル賞受賞者、山中伸弥氏もリスナーの一人。大学院生時代に聞き、「多くのビニェットを暗唱し…おかげで留学を実現」できたと本書にメッセージを寄せている。熱心なリスナーは多く、降板した際に復帰を求める声がNHKに殺到し、再登板となったほど。「32年半一度も欠かさず聴いたとか、最初のテキストを今も持っているという方もいます」と杉田さん。

番組は終わったが、「言葉は生きている。社会情勢とともに使い方も変化しており、新しいルールや常識を知らないと、落とし穴に落ちる危険性もある」と本書の執筆となった。

まずは「タブー語」(ジェスチャーを含む)。たとえば▽人々への呼びかけの定番「Ladies&gentlemen」は、LGBTなど性的マイノリティーの権利尊重のため▽年末恒例の「Christmas party」の呼び方は9・11以来、宗教色を感じさせないよう▽親指と人さし指でマルを作る「OK」サインは反対からは「WP」に見え、「white power(白人優位主義)」につながる-などとしてタブーになってきているという。

一方、パンデミックでさまざまな使われ方が登場している。「shelter‐in‐place warning(屋内退避勧告)」は核戦争などを想定した用語。「breakthrough」は軍事用語の「突破作戦」で、「大躍進」の意味もあるが、今は「2回目のワクチン接種後の感染」にも使われる。

本来前向きを意味する「positive」は「PCR検査で陽性の」として使われることが多くなり、「negative」な語になっている。

また、「work from home」の略語「WFH」は「在宅勤務する」、「Zoom」も「オンライン会議に参加する」とそれぞれ動詞として浸透。ちなみに、「friend」も「SNS上で友達リストに加える」の動詞になる。

一般の言葉では、日本語の「やばい」のように「beautiful」が「ひどい」、「sick」が「いかす」と、従来とは正反対の意味で使われ、発音や文法でも「学校では×になったことが、実社会で通用するように。格好良さを追求する若者文化、トレンド、社会情勢も影響しています」と杉田さん。

日常生活だけでなく、米国などではパスポートで「男女以外の性」を選択できるようになったり、カナダや豪州では国歌の歌詞を変えたりと言葉は刻々と変わっている。

杉田さんによれば、日本ではNHK朝ドラ「カムカムエヴリバディ」にも登場した昭和21年放送開始のラジオ「英語會話」で第1次英語ブームとなり、39年の東京オリンピックで第2次ブームに。そして日本企業に外資が入ってきた1990年代以降、第3次ブームが続いているという。

「英語の重要性を多くの人がひしひしと感じている。新常識を知らないと世界から取り残されていく」という杉田さんは、一般の人が英語の新常識を学ぶヒントをアドバイスする。

「オックスフォードやウエブスターなど欧米の辞書出版社や教育機関が、毎年11~1月に発表する『Word of the Year』を押さえればかなり新語通になれます」

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