書店バックヤードから

「旅立ち」に贈りたい、もらいたい一冊

左から『猪熊弦一郎のおもちゃ箱 やさしい線』(小学館)、『道をひらく』(PHP研究所)、『アルケミスト 夢を旅した少年』(角川文庫)
左から『猪熊弦一郎のおもちゃ箱 やさしい線』(小学館)、『道をひらく』(PHP研究所)、『アルケミスト 夢を旅した少年』(角川文庫)

もうすぐ春。卒業や入学、就職などを控えた若者だけでなく、雪解けとともに新しいことを始めたくなる季節です。大切な人の門出を祝うとき、人生の友となる一冊の本をプレゼントするのもすてきなこと。今回はそんなとき、贈りたい本を選んでいただきました。というのも、実はここにも旅立ちを目前にした人がおりまして…。(司会は文化部・田中佐和)

田中 本日は此川さんから発表があります。

此川 今回を最後に、エエねん!この本を卒業することとなりました。

田中 平成30年4月にこのコーナーが始まって以来、書店員さんの卒業は初めてです。寂しくなりますが、そんな惜別の気持ちも込めつつ、それでは選書をご披露ください。

MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店・持田碧さん選

・『アルケミスト 夢を旅した少年』(著/パウロ・コエーリョ、訳/山川紘矢、山川亜希子 角川文庫)

・『3年の星占い 2021-2023』(著/石井ゆかり すみれ書房)

・『サステイナブルに暮らしたい 地球とつながる自由な生き方』(著/服部雄一郎、服部麻子 アノニマ・スタジオ)

持田 私は『アルケミスト 夢を旅した少年』をメインにします。

パウロ・コエーリョ著、山川紘矢、山川亜希子訳「アルケミスト 夢を旅した少年」(角川文庫)
パウロ・コエーリョ著、山川紘矢、山川亜希子訳「アルケミスト 夢を旅した少年」(角川文庫)

中川 僕もそれちょっと考えたな。

持田 自己啓発小説の古典みたいな本です。羊飼いの少年が夢をかなえるまでのストーリーを通して、夢に向かって突き進めば、途中で思いも寄らない方向に行っても、最終的には望んでいたものに出会えるという内容です。

此川 購入者の年代が幅広いですよね。中学生も高齢者も買っていく。

持田 私は中学3年のときに読みました。「自己実現しなきゃ」と思い込んでいた時期で、「失敗するのはいい、挫折は絶対にするものなんだ」という部分に感激しました。新しいことを始めるときに元気をもらえる本です。

此川 いいですね、読んでみようかな。

スタンダードブックストア・中川和彦さん選

・『猪熊弦一郎のおもちゃ箱 やさしい線』(文/小宮山さくら、監修/丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、公益財団法人ミモカ美術振興財団 小学館)

・『愉快のしるし』(著/永井宏 信陽堂)

・『TAGIRI LIFE Vol.2』(著/カンマタカヤほか TAGIRI PUBLISHING)

中川 僕のメインは『猪熊弦一郎のおもちゃ箱 やさしい線』。猪熊弦一郎っていうアーティスト(画家)のことを書いた、伝記みたいな本です。三越の包装紙のデザインをした人というと、分かりやすいかな。

小宮山さくら文、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、公益財団法人ミモカ美術振興財団監修「猪熊弦一郎のおもちゃ箱 やさしい線」(小学館)
小宮山さくら文、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、公益財団法人ミモカ美術振興財団監修「猪熊弦一郎のおもちゃ箱 やさしい線」(小学館)

中川 1930年代に渡仏してピカソやマティスに出会うんだけど、影響を受けすぎて自分の絵が描けなくなった時期もあった。この本を読むと人生には紆余(うよ)曲折があって、でも「時間がかかってもできるんだ」という気持ちになる。猪熊さんは90歳で亡くなるまで「もうこれくらいでいい」とは思わず、描くことを楽しめたみたいで。

田中 「もう2冊」はどのような視点で選ばれたのでしょうか。

中川 生き方というか、著者それぞれの「物語」ですね。何かを始めるってことは新たな人生の物語を作るってことやから。猪熊さんじゃないけど、その物語はできれば長い方が面白いんちゃうかな。

此川 だいぶ染みる言葉ですね…。

紀伊国屋書店アリオ鳳店店長・此川洋平さん選

・『道をひらく』(著/松下幸之助 PHP研究所)

・『人生生涯小僧のこころ 大峯千日回峰行者が超人的修行の末につかんだ世界』(著/塩沼亮潤 致知出版社)

・『漂流者は何を食べていたか』(著/椎名誠 新潮選書)

此川 私は『道をひらく』をメインにしました。旅立つ人に「道をひらいていきなさい」といって、渡してもらうといいかなと。自分で買うよりも人からもらうとうれしい、座右に置きたい一冊です。

松下幸之助著「道をひらく」(PHP研究所)
松下幸之助著「道をひらく」(PHP研究所)

田中 心に刺さる格言が並んでいますね。

此川 少し時代がかったところはあるけれども、刺さります。「もう2冊」は大峯山(奈良県)で千日回峰行(せんにちかいほうぎょう)という命がけの修行をした方の自著と、漂流者の話。旅立つときの心構えということで。

田中 えらくハードな心構えですね…。

此川 これが僕の「旅立ち」のイメージだったみたいです(笑)。

田中 最後に、此川さんからこのコーナーの感想をお願いします。お2人からもぜひ一言ずつ。

中川 いやあ本当にいつも勉強することばっかりで、楽しい時間でした。

田中 中川さんはまだ卒業じゃないですよ!

持田 本の紹介コーナーというと、どうしても今売れている本や新刊の紹介になるので、テーマでくくることで、昔の本を引っ張りだしても成立するこのコーナーは特殊というか、ありがたいです。お2人とは、違う本を選ぶときもあれば示し合わせたように通じ合うことも多くて、不思議なご縁を感じました。

此川 僕はこの座談会に参加してみて、とても楽しかったです。2人と僕とは全然違う本を読んでいて、その引き出しの多さと面白さにいつも助けられました。ありがとうございました。

田中 次回は新たなメンバーを加えてお届けします。此川さん、長い間お世話になりました。

中川持田 ありがとうございました!

此川 はーい。

大阪にある本屋さんの書店員たちが集まり、毎月テーマに沿ってそれぞれが本を選び、語り合います。


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