ウクライナ侵攻、米軍抑止力揺らぐ 日本に影響も

米国のブリンケン国務長官と会談後、記者団の質問に答える林芳正外相=26日午前、外務省(杉本康士撮影)
米国のブリンケン国務長官と会談後、記者団の質問に答える林芳正外相=26日午前、外務省(杉本康士撮影)

ロシアが米国の制止にもかかわらずウクライナを侵攻したことで、日本の安全保障にも影響が生じかねない事態となっている。同盟国、パートナー国に対する攻撃を思いとどまらせる米国の「拡大抑止」の信頼性がウクライナ侵攻で揺らぎかねないためだ。今回の事態を受けて欧州の米軍プレゼンスが強化されれば、インド太平洋地域に戦力を重点配備する米戦略に影響を及ぼす可能性もある。

「日米同盟の抑止力、対処力の強化が不可欠である点を改めて確認した」

林芳正外相は26日、ブリンケン米国務長官と電話会談した後、記者団にこう強調した。両外相は欧州での戦争がインド太平洋地域に影響を及ぼすとの認識も共有した。岸田文雄首相も25日の記者会見で「わが国の安全保障の観点からも決して看過できない」と述べ、ウクライナ侵攻が「対岸の火事」ではないとの考えを示した。

ウクライナ侵攻が日本の安全保障に直結するのは、日本が依存する米国の抑止力が損なわれかねないためだ。外務省幹部は「中国はウクライナ情勢をじっと見ている。米国が同盟国、パートナー国を守る意思がないと判断すれば、台湾や尖閣諸島で挑発をエスカレートさせかねない」と警戒する。

米国はウクライナの同盟国ではなく、侵攻前から軍事介入しない意向を示していた。日本に対しては防衛義務を負っており、台湾関係法では台湾の防衛支援をうたっている。この点でウクライナとは違うという認識が日本政府内では大勢で、林氏は25日の記者会見で「米国の抑止の信頼性が影響を受けることはない」と強調した。

政府にとっては「抑止力に影響はない」と宣言することが抑止力強化の一環だ。日米両外相がウクライナについて協議する場でわざわざ日米同盟の「抑止力強化」を再確認したのは、中国などに誤解を与えないためのシグナルでもある。ただ、宣言と実態が乖離(かいり)すれば、中国や北朝鮮に攻撃を思いとどまらせる効果は低下する恐れがある。

米国内の変化も懸念要因だ。トランプ前大統領は22日、プーチン露大統領がウクライナ東部の親露派地域の「独立」を承認したことについて「天才的だ」と称賛した。2024年の大統領選でトランプ氏がもしも再選するようなことがあれば、同盟国への関与が弱まりかねない。日本としては、地域の安全保障に貢献する姿勢を示し、米国のアジア関与を維持する必要がある。林氏が25日の記者会見で「日本は米国の関与を強化し、自国の防衛力の強化にもさらに取り組んでいく」と強調したのは、このためだ。

一方、米政府は台頭する中国に対抗するため、インド太平洋地域における米軍展開を強化する方針だが、ウクライナ侵攻を受けて欧州正面の米軍プレゼンスを増強させる公算が大きくなった。バイデン政権が策定作業を進める国家安全保障戦略、国家軍事戦略にも影響を及ぼすとみられる。

外務省幹部は「米政府は中国を『唯一の競争相手』と位置づけている。これが大きく変わることはない」と述べる。欧州諸国にとってのロシアの脅威は主に陸上戦力で、海空軍力が主体の中国の脅威とは異なることも「欧州とアジアで米軍の奪い合いになることはない」(防衛省幹部)との見通しにつながっている。

ただ、防衛省内には影響を懸念する声もある。別の防衛省幹部は「空軍力は欧州にとっても必要になる。米軍が欧州に配備する空軍力を増やせば、インド太平洋地域の空軍力が削減されかねない」と危惧する。(杉本康士、市岡豊大)

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