ミニシアターと低予算映画 コロナ禍で奮闘

新作映画「なん・なんだ」について語る山嵜晋平監督=大阪市
新作映画「なん・なんだ」について語る山嵜晋平監督=大阪市

長引く新型コロナウイルス禍で、日本の映画業界が打撃を受けている。中でも大手に属さない低予算映画や、それらを上映するミニシアターへの影響は大きく、歴史ある劇場が閉館を決める事態に追い詰められている。日本の豊かな映画文化を守るにはどうすればいいのか。終わりが見えないコロナ禍で映画関係者が奮闘している。

今年1月、ミニシアターの先駆けとして知られる東京・神田神保町の「岩波ホール」が7月29日をもって閉館すると発表された。コロナによる急激な経営環境の変化が理由で、昭和43年の開館以来、54年の歴史に幕を閉じることになる。

「(岩波ホールの閉館は)多くの同業者にとって衝撃だった」。大阪市淀川区にある「第七藝術(げいじゅつ)劇場」の小坂誠支配人はそう話す。ミニシアターは大衆向けではない社会派やアート作品を上映することが多く、シニア層を中心としたコアな映画ファンに支えられている。コロナ禍はそんな業界事情を直撃した。第七藝術劇場も経営は厳しく、チケットの売れ行きはコロナ前の2~3割減の状況が続く。

ミニシアターの現状について語る第七藝術劇場の小坂誠支配人=大阪市
ミニシアターの現状について語る第七藝術劇場の小坂誠支配人=大阪市

コロナ禍が3年目になった今、頭をよぎるのは「もう以前の客足には戻らないのではないか」という不安だ。1月下旬から2月にかけて大阪の感染状況は加速度的に悪くなっていったが、客足はおおむねコロナ前の2割減で安定していた。逆に感染者が少なかった昨年10~12月は同3割減と低調だったという。

「感染が拡大すると比較的安全な映画をみに来るが、収まると他の娯楽に流れているのではないか。これでは収束しても客足は元には戻らない」と小坂さんは推測する。

神戸市の「元町映画館」でも同様に感染者数が少なかった昨年10月から今年1月初旬にかけてチケットの売り上げが減少。林未来支配人は「ミニシアターの客足はずっとゆるやかに減少していたが、コロナでそれが加速したように感じる」と不安を口にする。

生き残るにはミニシアターも変わるしかない。第七藝術劇場ではコロナの感染拡大後、オンラインによるチケット予約を始めた。それまでは当日券のみだったが、混雑緩和と利便性向上のために100万円以上をかけてシステムを導入した。公開作品やイベントの宣伝はいまだにチラシが主力だが、会員制交流サイト(SNS)の活用も進める。

「シニア向けにはどちらもあまり必要がなかった。若者が劇場に足を運んでくれるような取り組みを考えていきたい」と小坂さんは話す。

映画の作り手側も厳しい状況は同じだ。日本映画製作者連盟によると、昨年1年間で制作された邦画は直近10年間で最も少ない490本。多くは予算1千万円以下から数千万円の低予算映画だ。

現在公開中の映画「なん・なんだ」もその一つ。物語は元大工の三郎(下元史朗)が結婚して40年になる妻の浮気を知ることで始まる。夫、妻、浮気相手という複雑な人間関係を通して結婚とは、夫婦とは、幸せとはいったい何なのかをみるものに問いかける。

奈良出身の山嵜(やまさき)晋平監督が、自殺をしようとしていた高齢男性を止めた実体験をもとに物語を構想し、10年かけて映画化にこぎつけた。「映画に精通した人たちに向けた作品なので、なかなか企画が通らなかった」と山嵜監督は話す。

そんな低予算映画にとってコロナ禍の制約は重くのしかかる。体調管理のために深夜、早朝の撮影を自粛したことで撮影日数は増加。感染対策の人手や、密を避けるために余分に確保する控室など、今まで必要なかった費用がかかる一方で、予算は増えることはない。「絶対に譲れないものは残しつつ、シーンや登場人物をカットして予算との落としどころを探るしかない」という。

実は山嵜監督は、三池崇史(たかし)監督の下で「十三人の刺客」のリメイクや「藁(わら)の楯(たて)」などの撮影を現場で支えたたたき上げ。どんな撮影にどれぐらいの費用がかかるかすべて頭に入っているからこそできる芸当だ。

「嘆いても予算は増えない。前を向いて誠実に作品を作っていきたい」と山嵜監督。限られた環境で最善を尽くす。そこに日本映画の美学がある。(桑島浩任)

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